なぜ、脱炭素に向けて再エネが重要なのか? ~再エネの基礎知識とClimate Week NYCの最新議論を交えて~

2022.10.14

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【シリーズ】クライメート・ウィーク・ニューヨーク #02

本コラムは、SDGsやカーボンニュートラル等の目標達成に向け、再生可能エネルギーやRE100に関心のある方へ、再生可能エネルギーに関わる基礎知識と、クライメート・ウィークNYC 2022*でのグローバル企業の最新議論状況を交えて紹介し、日本企業の今後の取り組みに参考となる情報をお伝えします。(JCLP事務局)

 

*気候変動をテーマとする世界最大級のイベント。同イベントの概要等については、コラム「脱炭素社会を推進する、世界最大級気候変動イベントClimate Week NYC」をご参照ください。

 

この記事でわかること

再生可能エネルギーに関する基礎知識

再生可能エネルギーとは

 

再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)とは、太陽光、風力、水力、地熱、持続可能なバイオマス発電等、温室効果ガスを排出せずに発電するエネルギー源の総称です。SDGsや、カーボンニュートラルの目標達成の一環として、日本や世界で再エネ導入は加速しています。2021年時点で、日本の再エネ割合は、約20%ですが、政府は2030年までに同36~38%まで上げることを目指しています。

 

なぜ、再生可能エネルギーが注目されるのか

 

クライメート・ウィークNYCに参加し、最初に驚いたことは、参加企業のほとんどが気候変動への危機感*を共有し、「気温上昇を1.5℃に抑えるために、2030年もしくは2025年までの早い段階で二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガス排出量を大幅に削減しなければならない」という共通認識を持っていたことです。

 

*脱炭素社会が早急に求められる理由については、コラム「脱炭素社会とは? ~求められる理由と、実施すべき取り組み・課題~」をご参照ください。

 

加えて、各企業は、「再エネは最も取り組み易く、ゼロエミッション車やグリーン水素、脱炭素鉄鋼普及の基盤となるため、早急な再エネ拡大が重要である」との認識の下に議論をしていました。再エネに対する同認識の背景には、IPCC第6次報告書 第3作業部会 報告書*があります。各国の状況により費用やオプションは変わり得ますが、2030年までの早期に経済性のある形で大幅に排出削減をするためには、再エネ(特に、太陽光発電と風力発電)の導入が重要であることが示されています(図1)。日本では再エネ価格は高い印象があるかもしれませんが、既にインドや南アフリカ等の新興国において、再エネが価格競争力を持ちつつあり(イベントに参加した各国政府やエネルギー企業関係者による発言)、今後数年で先進国のみならず新興国でも再エネ導入が加速すると考えられています。

 

*参照先は、国立環境研究所による解説資料(日本語)。原典は、IPCC Sixth Assessment Report: Mitigation of Climate Change

 

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図1:削減オプションと2030年までの潜在的な正味排出削減量

IPCC第6次報告書 第3作業部会 報告書より一部抜粋・JCLP事務局追記)

※縦軸:削減オプション/横軸:2030年までの潜在的な正味排出削減量

※青色:削減にかかる費用が「安い」/赤色:削減にかかる費用が「高い」

 

再エネ基礎知識のまとめ

  • 再エネとは、太陽光や風力発電等の温室効果ガスを排出しない発電方式の総称。
  • 気温上昇を1.5℃に抑えるために、2030年までに大幅な温室効果ガス排出削減が必要であり、そのために再エネが重要。
  • 再エネは、安価で迅速に大量の排出削減をするポテンシャルが高いため、注目されている。

 

再生可能エネルギーに関わるグローバルでの議論状況

再エネ調達のグローバルスタンダード「RE100」の技術要件が変更へ

 

上記のように、早期の再エネ導入が求められる中、再エネ調達のグローバルスタンダードと考えられているRE100*の技術要件(RE100 Technical Criteria)の改訂に注目が集まっています。現在、技術要件改訂(案)の論点は3つありますが、特に関心を寄せているのは、再エネと認められる電力の基準が変更される点です。具体的には、運転開始から15年を超える発電所からの電力は、RE100では再エネとして認められなくなります。

 

*世界で影響力のある企業が、事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットする協働イニシアチブです(RE100は「100% Renewable Electricity」の意)。企業が結集することで、政策立案者および投資家に対してエネルギー移行を加速させるためのシグナルを送ることを意図しています。

技術要件改訂によるRE100参加企業の様々な反応

 

クライメート・ウィークNYCで、同改訂(案)に対するRE100企業の反応を伺ってみたところ、立場により様々な意見があることが分かりました。米国では、「Green-e」という再エネ認証があり、従来から15年を超える再エネの環境価値を認めていなかったため、同国内ではスムーズに理解が進んでいる様子です。一方で、欧州やアジア地域では、運転開始から15年を超える大型水力発電からの調達を計画している一部企業から懸念の声もあったようです。ただ、前述の通り、2030年までの早期に大量に再エネ導入をする必要があるとの共通認識の下、同改訂(案)に落ち着く方向で調整が進んでいます。同改訂には、適用除外や適用時期の緩和が検討されており、10月中には公式な方向性が示されると考えられます。

 

なお、日本では、運転開始からが15年を超えた大型水力発電所由来の電力は、RE100の要件を満たせなくなる見込みです(日経GX参照)。そのため、自家消費やPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)等の追加性のある電力調達手法が普及していくと考えられています。

 

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再エネ拡大に向けた課題と対応案

 

再エネの拡大に向け、日本では電力系統容量の不足や、調整力の不足、再エネのコスト高がよく指摘されます。これらの課題認識(再エネのコスト高を除く)は、他の先進国でも同様にあり、クライメート・ウィークでもよく議論されていました。同課題に対する対応として、系統の更新・増強や調整力の導入(海外では「フレキシビリティ」と言う。系統内での電力融通、再エネ由来の水素貯蔵、ヒートポンプ、EV・蓄電池の充放電。)等が挙げられており、対応案自体は日本と大きな違いはないようでした。一方で、同イベントでは、「必要な技術は既に存在しているため、どれだけ安価で迅速に大量に再エネ等の実装を進めることができるか」が主な論点となっており、技術開発などの中長期に渡る取り組みの議論は少ないことが特徴的でした。

再エネの今後について

  • RE100の再エネ調達要件が変更される予定であり、運転開始から15年を超える発電所からの電力は、RE100では再エネと認められなくなる見込み。今後、自家発電やPPA等の追加性のある電力調達方法が拡大していくと考えられる。
  • 再エネ拡大に向けた課題は、国内外で大きな違いはない。グローバル企業の中では、主な脱炭素技術は既にあることが共通認識となり、早期の導入加速が論点。

 

再生可能エネルギー拡大に向けた企業動向

再エネ拡大に向け、サプライチェーン全体での連携加速

 

再エネ拡大に向け、電力需要家企業の視点では、企業間連携の重要性が強調されていました。SBTI企業ネットゼロ基準への対応も含め、企業の排出量の大半を占めるスコープ3の排出量削減(サプライチェーン全体での排出量削減)に向けた連携を加速する動きが活発化しています。今回のクライメート・ウィークNYCでは、英製薬大手グラクソン・スイスクライン(GSK)が、「持続可能な調達プログラム(Sustainable Procurement Programme)」の立上げを発表しました*。同プログラムは、サプライヤーに対して、エネルギー、輸送等の分野でサスティナブルな取り組みを約束し改善するよう求め、同社が支援するものです。

 

従来の事例では、米Apple社のクリーンエネルギープログラムが有名ですが、これらのサプライヤー向けのプログラムを支援しているのは、フランスの電気機器・産業機器大手シュナイダーエレクトリックです。RE100企業であるGSKやApple等の電力需要家のニーズに対し、サービス提供者が上手く応えている好事例であり、海外企業の強かな対応が伺えます。

 

*グローバルな製薬企業が協働で再エネ導入を支援する「エナジャイズ(Energize)」というプログラムが既にありますが、GSKは独自のプログラムで再エネ導入をさらに加速する姿勢を見せた形です。現在、エナジャイズには、GSK、武田薬品工業、アストラゼネカ等の13社が参加しています。

再エネ拡大に向け、課題に対する政府施策の後押しも必要

 

上記の自社含めたサプライチェーン全体の排出削減取り組みに加え、政府施策の後押しの必要性も強調されていました。前述の課題に対する対応策である系統の更新・増強や調整力の導入は、企業単体で取り組むことが難しい部分であるため、政府が取り組みを進めやすいように、企業から支持を表明することが必要です。

 

また、脱炭素取り組みを進めることは、現在の化石燃料中心の経済から脱炭素型の経済に移行する必要があります。この際、配慮しなければならないのが、化石燃料に関連する分野で働いている方々への政策的・経済的な支援です。日本でも議論が始まっていますが、同分野の就業者に対する「リスキリング」が求められています。例えば、化石燃料関連の就業者の方に、再エネ関連産業の知見を学んで頂き、就業も含めて支援することが今後の対応として必要になります。政府や関連企業のみで同議論を進めるのではなく、再エネ調達を進めたい企業が率先して支持する姿勢を示すことで、脱炭素取り組みを加速させることができると考えられます。

 

再エネ拡大に向けた企業動向まとめ

  • 自社の脱炭素化だけでなく、サプライチェーンも含めた脱炭素支援が活発化。
  • 政策施策を後押しし、産業界全体で再エネ課題を克服、脱炭素化を推進することが重要。

 

まとめ

 

JCLP事務局員がクライメート・ウィークNYCで話した方の多くは、企業の役員クラスの方であり、経営層が脱炭素ビジネスを牽引する姿が印象的でした。気候変動は、社会経済活動への重大なリスクであるとの共通認識の下、主要なグローバル企業の脱炭素取り組みは日々加速しています。特に、再エネは、取り組み易く、排出量の削減幅が大きい分野です。RE100の再エネ基準が変わることで、日本でも追加性のある再エネ調達手法が増えることが見込まれています。

 

SDGsやカーボンニュートラル達成を目指し、自社含めたサプライチェーン全体での再エネ取り組みや、企業単体では対応できない課題については政府施策を後押しすることが重要になると考えられます。これらのグローバル企業の議論状況を参考にし、各社の脱炭素取り組みがより一層前進することを期待いたします。

 

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