脱炭素社会を推進する、世界最大級気候変動イベントClimate Week NYC

2022.9.30

CWNYC2022-OpeningCeremony

【シリーズ】クライメート・ウィーク・ニューヨーク #01

2022年9月19日より、アメリカニューヨークでクライメート・ウィーク・ニューヨーク2022(以下、Climate Week NYC)が開催されました。JCLPでは、現地ニューヨークで視察を行い、その最新情報を3回に分けて皆さまにお届けします。

 

この記事でわかること
  • Climate Week NYCとは?
  • イベント内容と基調講演からのメッセージ
  • 気候変動とビジネスの関わり

Climate Week NYC 2022とは

 

CWNYC2022-ClimateWeekNYC-Logo

Climate Week NYC 2022は、今年で14年目を迎える世界最大級の気候変動イベントです。今年は9月19日から7日間にわたって開催され、ビジネス、政府、金融・投資家、国際機関など各方面から、気候変動対策に影響力のあるリーダーが一同に集いました。

 

主催者であるClimate Groupは、イギリスに拠点を構え、脱炭素社会を目指して、気候変動対策を推進しています。日本でも多くの企業・団体が取り組んでいるRE100、EV100、EP100、SteelZero、ConcreteZeroの各イニシアティブを牽引するなど、大規模で影響力のあるネットワークを構築しています。

 

今年の開会初日は、くしくもイギリスのエリザベス女王の追悼日と重なり、ニューヨークでも朝から各局がその模様を報じていました。イギリス王室ではチャールズ三世が気候変動に熱心に取り組まれており、2020年のClimate Weekではオープニングでメッセージを送られていたとのことです。

影響力のある人々が多数参加

 

Climate Week NYCには、主催者であるClimate Groupに加え、エスティ―ローダー、マッキンゼー・アンド・カンパニー、日立製作所など、多くの著名企業がイベントパートナーに名を連ねています。

 

また、各セッションの登壇者も豪華で、オープニングセレモニーでは司会をCNNのビル・ウィアー氏が務め、企業各社からのCEOや役員クラス、世界気象機関事務総長のペッテリ・ターラス氏が登壇されました。また、レセプションでは、ハリウッドスターのマット・デイモン氏が来場するなど、なんとも豪華絢爛であり、影響力のある人たちも強い関心を寄せる気候変動という問題の重要性を改めて認識されられます。全ての参加者をここで挙げることはできませんが、ぜひClimate Week NYCのWebサイトをのぞいてみてください。

活気あふれる開催地とイベント会場の雰囲気

 

CWNYC2022-NYCstreet

開催地は、ニューヨークのマンハッタン。
市内の複数の会場で、イベントが多数開催されていますが、それぞれの会場は徒歩で移動できる距離にあり、会場間の移動でマンハッタンの雰囲気も味わえます。
会場に入ると、多様な人種が集うニューヨークの雰囲気があり、各国、各業界・団体から要人が参加し、活気にあふれています。また、会議の合間やレセプションでは、参加者がそれぞれに挨拶を交わし、活発に情報交換が行われます。対面で会う機会が少なくなっている昨今において、顔をあわせてお互いを知り、関心事について話すことの重要性を改めて感じることができました。

脱炭素に関わる内容を多面的に議論

 

イベントのテーマ ―重要なことは行動すること―

 

今年のClimate Week NYCのテーマは「Getting it Done」、日本語でいえば 「行動せよ・成し遂げよ」というような意味です。このテーマは、実は昨年と同じなのですが、それだけ「実行すること」が、現在の重要な課題になっていることが分かります。なお、この点について、Climate Groupのヘレン・クラークソンCEOは次のように述べています。

 

「重要なことは、コミットメントから行動へと移行することであり、Climate Week NYCは、どうすればもっと多くを行うことができるか自問し続けるのに理想的な場所だと考えています。どうやって成し遂げますか?2021年も進歩はありましたが、それらは十分ではありません。完了したと主張する前に、やらなければならないことがたくさんあります。行動をとるうえでの重要なキーワードは、説明責任(Accountability)、正義(Justice)、緊急性(Urgency)の3つです」。

脱炭素社会形成のための10分野別のセッション

 

Climate Week NYCのプログラムは、建築、エネルギー、環境正義、交通、金融、持続可能な生活、自然、政策、産業、食品という、合計10分野のセッションが設けられています。読者の皆さんもいずれかの分野に係わりがあるのではないでしょうか。
昨今の社会情勢の変化、そして現在の脱炭素の状況を踏まえ、今後私たちがどのように脱炭素社会の形成を成し遂げていくのか、多面的に議論がなされていました。

 

各セッションで印象に残ったのは、全体テーマである、“行動”、“実践”の重要性が随所で議論されていたことです。気候変動は、マクロ経済の安定、成長、雇用にとっても大きな影響を及ぼす要因でもあり、全ての業種に係るものと捉えられています。そのような認識の下で、各企業がいかに実践を進めるのかが重視されていました。

 

基調講演では、世界のトップコンサルタントであるマッキンゼー社から、ローラ・コルブ氏が登壇。多くのクライアントにネット・ゼロに関するアドバイスを行っていることも踏まえ、今後企業が実施すべき項目を紹介しました。

WNYC2022-LauraCorb-Mckinsey

いくつかご紹介すると、まず、前提となる視点として、2050年という将来ばかりでなく、2025年、2030年に焦点をあて、実際に削減を着実に進めることが、真の進歩であるということ。また、1社単独ではなく、業界を越えて協力をしていくこと。そして、積極的な行動と環境正義を戦略に組み入れること。成功するのは、秩序正しく、公正で、包括的である場合のみである、などです。
企業はリスクとコストを評価しつつ、脱炭素化を進める必要があるが、それらを上回る成長の機会や新たな収益を勝ち取っていくことが大事とも述べられていました。なお、脱炭素化の機会の面に目を向けると、その規模は12兆ドルにのぼるとされています。

 

他にも複数のセッションがありましたが、経営者らは、「気候変動と持続可能性への対応の優先順位が分野を問わず上がっている」ととらえており、“行動を起こすこと”の重要性が伝えられました。

気候変動とビジネスの関わり ―財務および投資家の視点―

 

Climate Week NYCの数あるセッションの中には、投資家や金融機関を中心としたイベントもあり、ビジネスの原資ともいえる資本・投資との関わりの議論もされました。そこでの議論を要約すれば、「気候変動は、企業、ビジネスモデル、キャッシュフロー、財務状況とパフォーマンス、そして情報開示に大きな影響を与える可能性がある」ということでしたが、現在日本でも注目を集めている「気候変動リスク情報の開示」と並んで重視されていたのが、「実際に資本・投資をどう動かしていくか、変えていくのか」という観点でした。投資家は、脱炭素社会への移行を前にして、長期だけでなく短期的にも、企業の設備投資や研究開発、事業運営が脱炭素化に整合する分野に向かっているのか、関心をもっていることが伺えました。

 

さらに、投資家が気候変動リスクについて考える際の「射程」が変わってきているとの議論もありました。以前は、物理リスク、移行リスクを1社が抱え、そのリスクに1社が対処できると考えられていましたが、現在では、それらのリスクは1企業や1つの業界を直撃するものではなく、グローバルな資本市場全体で対処する必要があるというのです。グローバルな取り組みが必要とされるがゆえに、投資家サイドは、脱炭素を実現する銀行や企業等に重点を置き、各企業はより確かな情報開示が求められてくることでしょう。

まとめに代えて

 

気候変動問題では、リスクの話が目立ちます。もちろん、気候変動は危機であり、様々なリスクが伴うという認識は共有されていますが、同時に、リスクと表裏一体のものとして「機会」があるとも捉えられていました。企業、金融機関、投資家、政策立案者などのあらゆる関係者が、垣根を越えて脱炭素化の課題に対処し、スピード感をもって世界の資本市場を変えていくこと、また、それをビジョンやコミットメントの段階で終わらせず、“実践”する方法を見つけていこうとする主張が印象的でした。

 

Climate Week NYC のセッションの一部はオンデマンドでも配信されています。またSNS上でもハッシュタグ#ClimateWeekNYCで多くの情報がアップされていますので、ぜひチェックしてみてください。

CWNYC2022-WatchOnDemand

 

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