世界が2015年に合意した「パリ協定」を起点に
各国で政策が転換し、それがマーケットの変化を通じて
企業の業績にも影響を与え始めています。

1. パリ協定の背景:気候変動の脅威とカーボンバジェット

気候変動の脅威

  • ・気候変動は、世界的に重大な脅威と認識されつつある。食糧や移民・難民、健康、貧困、そして安全保障へも悪影響を及ぼすリスクがある。
  • ・許容しがたい気候変動の悪影響の回避という観点から、「産業革命後の気温上昇を2℃以内に抑える」という目安が、COP16(2010年)で合意されている(一般的に「2℃目標」と呼ばれる)。

気候変動による、将来の分野別リスク (IPCC*第5次評価報告書WG2 政策担当者サマリーより抜粋)

  • 沿岸低地:海面上昇で洪水が増え、適応策なしでは数億人が移住を迫られる
  • 食料安全:約4℃以上の局所的温暖化で食糧安全保障に重大リスク
  • 経済部門:2.5℃上昇で世界経済の損失は0.2~2%の可能性
  • 健康:熱波や食料不足による病気・死亡の可能性増大
  • 貧困:食料不足、経済減速が新たな貧困の引き金に
  • 生態系:陸上、淡水域で絶滅の可能性が高まる生物種も
  • 人間の安全保障:貧困増大等により、内戦・紛争リスクが間接的に増大

*気候変動に関する政府間バネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)。国連と世界気象機関(WMO)により設立され、2,500人以上の科学者の気候変動に関する研究成果を取りまとめる。IPCCの報告書は最新の科学的なコンセンサスとされる。

カーボンバジェット(残された排出可能量)

  • ・IPCC第5次報告書は、気温上昇は、温室効果ガスの累積排出量に依存することを示した。これは、気温上昇を一定に収めるには、いずれ(正味)
    排出量をゼロにする必要性を示唆している。
  • ・ 気温上昇と累積排出量の比例関係を受け、2℃目標達成への条件、即ち「残された排出可能量」が明らかになる。「残された排出可能量」は、利用可能な予算になぞらえ、一般に「カーボンバジェット」と呼ばれる。
  • ・ 2℃目標達成には、バジェットの残余量を超えない範囲で経済活動を行う必要があり、必然的に「あと数十年で排出ゼロ」という大きな方向性が導かれる。

2. パリ協定の概要

  • ・ パリ協定は、気温上昇を2℃未満に抑制するために、いつまでにどのような規模の削減を行うか(今世紀後半には排出実質ゼロ)を示し、世界が脱炭素に向かうということを、強いシグナルとして社会に発信した。
  • ・ 一方、現在の各国の削減目標を合算しても、2℃目標達成に必要な削減量を大幅に下回る。このギャップを埋めるべく、パリ協定では、①各国の削減の進捗確認と2℃目標達成への妥当性の評価(グローバル・ストックテイク)、② 5年毎の各国目標の見直し(上方修正:Ratchet-Up)、というメカニズムが組み込まれている。
  • ・ また、長期的な脱炭素化という方向性を各国で策定し、中長期的に政策や経済活動を脱炭素に整合させることを意図した「長期低炭素発展戦略(長期戦略)」の策定と提出を求めている(日本の長期戦略検討状況は後述)。

パリ協定の要点

目的 産業革命以降の平均気温上昇を2℃未満に抑制する
1.5℃未満への抑制が努力目標
締約国数 196ヵ国
長期目標 世界の温室効果ガス排出量をできるだけ早く減少に転じさせる
今世紀後半には排出量と吸収量を均衡させる(排出実質ゼロ)
各国の排出削減目標
(NDC)
各締約国が独自に削減目標を作成・提出・国内対策を実施する
5年ごとに更新し、目標を引き上げる(上方修正:Rechet-Up)
長期戦略 各締約国は、長期の低排出開発戦略を提出するよう努める
2020年までの提出を要請
全体進捗検討
(グローバル・ストック・テイク)
全体進捗を評価するため、協定を定期的に確認
最初は2023年に、その後は5年ごとに実施する

3. 現在の気候変動及び排出削減の状況

気温・海水温の上昇は止まらず、気象現象が増加・強大化

・世界の平均気温は、産業革命以前に比べ既に1℃上昇している。IPCCによると、早ければ2030年にも同基準より1.5℃上昇する見込み。海水温も2016年以降、3年連続で観測史上最高温度を更新しており、この気温・海水温の上昇は気象現象の増加・強大化につながっている。

温室効果ガス(GHG)排出量は増加傾向

・世界のGHG総排出量は、2014年~2016年の間は横ばいだったが、2017年には1.6%増加。IEA及び国際研究チーム「グローバルカーボンプロジェクト(GCP)」は、この増加傾向は継続しているとそれぞれ報告。GCPは2018年は2.7%の増加と推計している(2018年12月時点)。発展途上国だけでなく、先進国でも増加している。

・世界のエネルギー消費量を見ると、再エネの割合が急速に増えつつある一方で、総消費量における再エネの割合はまだ小さく、排出量を減少傾向に転じるには、更なるエネルギー転換が必要であることを示している。

4. 日本の状況

国際社会における日本の立ち位置

・パリ協定に提出している日本の削減目標は、2030年度迄に2013年度比で26.0%削減(1990年比で18%減)

・ この削減目標は、気候科学者のシンクタンク「カーボンアクショントラッカー」によって、2℃目標達成に必要な削減量に照らし、「大きく不十分(highly Insufficient)」と評価されている。この削減目標では、目標が達成されたとしても、約3.5℃の気温上昇時の排出量に相当する。

日本の対策とその評価

・ 世界のGHG総排出量は、2014年~2016年の間は横ばいだったが、2017年には1.6%増加。IEA及び国際研究チーム「グローバルカーボンプロジェクト(GCP)」は、この増加傾向は継続しているとそれぞれ報告。GCPは2018年は2.7%の増加と推計している(2018年12月時点)。発展途上国だけでなく、先進国でも増加している。

・世界のエネルギー消費量を見ると、再エネの割合が急速に増えつつある一方で、総消費量における再エネの割合はまだ小さく、排出量を減少傾向に転じるには、更なるエネルギー転換が必要であることを示している。

ドイツ スペイン イギリス フランス イタリア アメリカ カナダ 日本
目標年 ①2025
②2035
2020 2030 2030 2020 2035 2030
再エネ導入
目標比率
①40~50%
②55~60%
40% 44% 40% 35~38% 80%
(※)
22~24%

※アメリカは原発を含むクリーンエネルギーの目標比率を定めている

・ 排出上位57カ国のGHG排出量、再エネ導入率、近年策定された政策を総合評価し、ランク付けする「気候変動パフォーマンスインデックス(CCPI)」*によると、日本は46位に位置している。
*気候行動ネットワークヨーロッパ(CAN-E)及びジャーマン・ウォッチ(Germanwatch) が作成。