脱炭素社会とは? ~求められる理由と、実施すべき取り組み・課題~

2022.7.11

脱炭素社会
本コラムは、気候変動とビジネスの関係(脱炭素経営)に関心を持ち始めた方へ、押さえて頂きたいキーワードや、動向を紹介していくコラムです。(JCLP事務局)

温室効果ガスの影響で地球の平均気温は上昇を続け、人類の存続にも影響すると言われています。
本記事では、脱炭素社会の概要や課題、実施すべき取り組みについて解説します。

 

この記事でわかること
  • 脱炭素社会の意味や、低炭素社会との違い
  • 脱炭素社会を実現するための取り組み
  • 脱炭素社会を実現する上での課題

脱炭素社会とは

 

脱炭素社会

脱炭素社会とは、地球温暖化・気候変動の原因となる温室効果ガスのうち、最も排出量の多い二酸化炭素(CO2)について、実質的な排出量ゼロを達成している社会を指します。その為に、最大限CO2排出量を抑制するとともに、どうしても排出を避けられないCO2を吸収または回収・貯留することで、CO2排出量実質ゼロを実現する取り組みが求められます。なお、CO2の排出と吸収のバランスによって、実質的に排出量がゼロとなる状態を「カーボンニュートラル」とも呼びます。

「低炭素社会」から「脱炭素社会」へ

 

2015年に採択されたパリ協定を境に、それまでのCO2排出量を従来よりも抑えることを目標とする低炭素社会から、排出量を実質的にゼロにする脱炭素社会へと、国際社会の目標が明確に変化しました。気候変動による自然と人間社会への負の影響が科学的に明らかになる中、世界の平均気温上昇を抑えるために、できるだけ早くCO2の排出を実質ゼロにすることが必要という認識が国際的に広まったことが、この変化の背景にあります。
パリ協定では、世界の気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするとともに、21世紀の後半にはカーボンニュートラルを達成する目標が合意されました。

その後、2021年11月に開催されたCOP26では、世界の平均気温の上昇を1.5℃未満に抑えるための削減強化を各国に求める「グラスゴー気候合意」が採択され、世界の気候変動対策の目標は、事実上「1.5℃」にシフトしてきています。

脱炭素社会が求められる理由とは

 

気候変動に関する研究成果を整理し、政策に科学的基礎を与える役割を担う国連組織であるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、報告書の中で以下のように指摘しています。
・2018年10月:「1.5°C上昇であっても、健康、生計、食糧安全保障、水供給、経済成長などに対する気候関連リスクが増加し、2°C上昇ではさらにリスクが増加する」
・2021年8月:「温暖化が人間の影響であることは疑いない」
・2022年2月:「人間の活動による気候変動が引き起こす、酷暑・干ばつ・豪雨・火災などの自然災害の頻度と規模が増加している」

『脱炭素経営入門 気候変動時代の競争力』p41より(2021:松尾雄介:日本経済新聞出版社) 

 

「衣食足りて礼節を知る」という言葉がある。気候変動はその「衣食住」を危うくする。
そのような状態では、他を思いやる心など、人の「善なるもの」も削り取られていく。そういう社会では人々は安心して暮らせなくなる。経済や企業の発展も望めないだろう。
気候変動は一般的にイメージされる環境問題の範疇を超え、社会の安定や平和を根本から揺るがすリスクである。これが、現在世界で起こっている変化を理解する上での、気候変動に対する適切な認識である。

 

気候変動の影響は全ての人に等しく降りかかるのではなく、インフラの整備が十分でない地域や、所得の低い人々など、社会的弱者がより大きな影響を受けることも指摘されています。その為、2015年の国連サミットで採択された、持続可能な開発目標(SDGs)では、気候変動とその影響を軽減する緊急の対策が必要とされています。
その緊急度を示す概念として「カーボンバジェット」と呼ばれるものがあります。

脱炭素の緊急性(残されたカーボンバジェット)

 

これまでの観測により、世界平均気温の上昇と、過去に人間の活動によって排出された「累積の」CO2排出量に比例関係があることが解っています。CO2は大気中に長期間とどまるため、過去のCO2排出による温室効果が持続します。

2021年時点で、世界気温は産業革命前から約1.1℃上昇していると報告されていますが、この間に人間の活動により排出されたCO2は約2460ギガトンです。気温上昇を1.5℃に抑えるために、2020年以降に許容される残りのCO2排出量(カーボンバジェット)はわずか約330ギガトンであり、2020年時点での年間排出量のままでは、2030年を待たずに超えてしまうことが指摘されています。

カーボンバジェットを使い切ってしまうと、世界気温が高い状態が持続してしまい、気候変動の影響が長期間続くことにつながります。これが、緊急の対策が必要とされる理由です。

 

残されたカーボンバジェットと2020年の年間排出量

IPCC AR6 WG1報告書』のカーボンバジェット(67%確率)に、『Global Carbon Project』の2020-2021年排出量を加味しJCLP事務局作成

脱炭素社会を実現するための取り組み

 

気候変動への対応は、近年の主要7ヶ国首脳会議(G7)で最重要課題として議論されています。また、岸田総理が掲げる「新しい資本主義」のグランドデザインにおいても「気候変動問題は、新しい資本主義の実現によって克服すべき最大の課題」と記されるなど、日本と世界が直面し乗り越えるべき最大の危機の一つと認識されています。
ここでは、IPCCによる第6次報告書(環境省による概要まとめ)の中で取り上げられているものを中心に、その他の情報源も交え、脱炭素社会に向けて進められている様々な取組みの一部を紹介します。

エネルギーの脱炭素化

 

IPCC第6次報告書では、ただちに温室効果ガスの排出を削減することが必要であり、そのためには、化石燃料から太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーへの転換を進めなければならない、としています。加えて、エネルギー効率の向上と省エネルギーによってエネルギー需要を大幅に減らすことも必要です。

また、国際エネルギー機関(IEA)は、先進国では2035年までに電力部門をネットゼロにすることが必要であると指摘しています。

産業部門の変革

 

生産システムの革新的な変化とともに、需要管理、エネルギーと材料の効率化、循環型の物質フローを含むあらゆる対策をとることで、徹底的な排出量削減をバリューチェーン全体で実現することが求められています。

産業部門の中には、大量のエネルギーを必要とし、排出量削減が容易でないとされる鉄鋼業などもありますが、世界ではそれらの部門の排出削減に向けて先進的に取り組む動きが加速してきています。例えば、鉄鋼業の脱炭素化を推進するイニシアティブであるSteelZeroには、欧州を中心に大手建設業・自動車メーカー等が結集し、排出量ゼロ鉄鋼への需要シグナルが強く発信されています。

運輸部門の変革

 

輸送全体の効率化を図った上で、陸上輸送については低排出電力を電源とした電気自動車(EV)等のゼロエミッション車両(ZEV)への転換、海上・航空輸送については、バイオ燃料や水素および合成燃料の拡大によって、排出量を大幅に減らすことができるとされています。ただし、燃料の製造過程において、温室効果ガスの排出をできるだけ少なくすることが必要になります。エネルギーのクリーン化や輸送の効率化は、大気汚染の縮小や渋滞の緩和などの様々な便益も期待されています。

住宅・建築の脱炭素化

 

建物の断熱性能向上による、冷房や暖房に必要なエネルギーの削減が期待されています。新築の建築物を排出ゼロにするだけでなく、既存の建物を改修し、エネルギー消費量を低減することも必要と指摘されています。

政策

 

脱炭素社会の実現は、経済社会全体の大きな変革です。政府はこのような社会の変革を後押しするため、必要な規制等を実施するだけでなく、脱炭素に向けた産業社会の取り組みを速やかに拡大する政策を導入することが求められています。

特に、温室効果ガスの排出に対し金銭的なコストを課すカーボンプライシングは、排出量を削減する取組みが経済的メリットとなるため、脱炭素化推進に経済的なインセンティブを与えることが期待されます。
適切な制度設計によるカーボンプライシングの導入は、脱炭素社会実現に向けた大変重要な政策と言えるでしょう。

脱炭素社会を実現する上での課題

脱炭素社会

2019年時点で、日本は化石燃料に由来するCO2排出量が世界で5番目に多い国であり、世界の脱炭素化実現のために、日本の果たす役割は重要です。
日本の目標である、2050年カーボンニュートラルに向け、主な課題と思われるものを紹介します。

化石燃料依存からの脱却

 

2020年時点での日本のエネルギー源の8割以上は化石燃料となっています。脱炭素社会の実現の鍵となる再生可能エネルギーは、技術的に確立しており、積極的な導入政策による低コスト化や地域産業化などの事例が世界的に見られ、導入拡大に取り組む国が増えています。日本においても、2021年10月に政府が定めた第6次エネルギー基本計画において、「再生可能エネルギーの主力電源化を徹底し最優先の原則で取り組む」とされており、今後の進展が注目されます。

特に、日本国内でポテンシャルが大きいとされている、太陽光発電や風力発電において、地域と共生する適地での太陽光発電導入や、洋上風力発電を日本や地域の産業として確立しつつ導入を加速していくこと等が、輸入に頼らない国産エネルギーによる自給率向上やエネルギー安全保障の観点からも、増々重要な取り組みとなることが予想されます。

また、世界的にもさらなる再エネ導入の拡大に向けて、送配電網や需要側・供給側のデジタル化による柔軟性の最大化や、揚水発電など既存の仕組みにEV等も加わった、これまでにない新たな統合的なシステムを見据えた動きが盛んになってきています。日本においても、再エネ導入拡大に合わせて、その時々に応じた経済的に最適な手段を見定め、着実に導入していくことが重要になっていくものと考えられます。

輸送・物流の脱炭素化

 

IEAは、1.5℃目標達成には、乗用車・バン等小型車については2035年頃までに、トラック等中・大型車については2040年までに、新車販売に占めるZEV比率を100%とすることが必要であるとしています。自動車からの排出は日本のCO2総排出量の約16%を占める大きな排出源となっています。

特に物流に使われている商用車は稼働率が高く1台あたりの排出量が多い一方、販売量は自家用乗用車に比べ大幅に少ないため、車種の開発自体や、量産化による価格低減等の遅れが危惧され、1.5℃目標達成に向けて取り組みを進めている企業等からも、重要な課題として注目されるようになってきています。

まとめ

 

脱炭素社会とはどのようなものか、なぜ緊急の対策が必要とされているのか、そのためにどのような取組みや課題があるかを紹介してきました。世界が協調して温室効果ガスの排出量削減に取り組む流れは明確かつ後戻りすることはなく、転換速度の問題となっていくのではないでしょうか。
個々の企業にとっても、脱炭素社会に向けて目標を設定し、実践を進めることで課題が明らかになってくることでしょう。その課題を解決する為に自社が何をできるのか真剣に考え、様々なステークホルダーと協調して取り組むことが、次世代に求められる企業へと進化していく筋道ではないかとJCLPでは考えています。

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