脱炭素に向けた目標とは? ~世界各国及び企業の目標例を紹介~

2022.7.21

本コラムは、気候変動とビジネスの関係(脱炭素経営)に関心を持ち始めた方へ、押さえて頂きたいキーワードや、動向をJCLP事務局が紹介するコラムです。
今回は、脱炭素に向けて世界各国や企業が掲げる排出削減目標についてご紹介します。

この記事でわかること
  • 「1.5℃目標」と排出削減目標の関係性
  • 世界各国が掲げる排出削減目標例
  • 企業が掲げる脱炭素化の目標例

「1.5℃目標」と排出削減目標の関係性

脱炭素 目標 01

写真:UNFCCC

パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べ2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をするという目標が掲げられています。

その後、2021年11月に開催されたCOP26では、気候危機の危険性を鑑み、世界の平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えるための削減強化を各国に求める「グラスゴー気候合意」が採択されました。世界の気候変動対策の目標は事実上「1.5℃」にシフトしてきています。

では、この1.5℃目標を達成するために、どういった対策が必要なのでしょうか。

これまでの観測から、世界平均気温の上昇と過去に人間の活動によって排出された累積CO2排出量には、比例関係があることが解っています。したがって、気温の上昇に歯止めをかけるには、累積CO2排出量に一定の上限を設け、この上限を超えないよう世界のCO2排出量を削減していかなければなりません。

1.5℃の場合、累積排出量の上限の目安は約2790ギガトンであり、これを超えないためには、「世界全体のCO2排出量を2030年までに約半減、2050年までに実質ゼロ※」を目指す必要があるとされています。
※吸収・除去量を排出量から引いた合計値をゼロにする状態。

近年各国政府が次々と排出削減目標を強化している背景には、この1.5℃目標へのシフトと、「世界全体のCO2排出量を2030年までに約半減、2050年までに実質ゼロ」という目安があります。

カーボンバジェットについては、コラム「脱炭素社会とは? ~求められる理由と、実施すべき取り組み・課題~」をご覧ください。

世界各国が掲げる排出削減目標例

脱炭素 目標 02

パリ協定の締約国数は190以上にも上りますが、これらの締約国は中長期的な目標を立て、5年毎に目標を更新・提出することが求められています。
2021年はこの5年毎の見直しのタイミングであったため、1.5℃目標達成に向け多くの国が自国の排出削減目標を引き上げました。

主要各国・地域の最新の排出削減目標は以下の通りです。(※下表はCO2に加え、メタン等その他の温室効果ガスを含む目標であることに留意。)

 

国・地域 2030年目標 長期目標
基準年 削減目標
日本 2013年度 46%、さらに50%の高み
に向けて挑戦
2050年カーボンニュートラル
米国 2005年 50~52% 2050年カーボンニュートラル
EU 1990年 55% 2050年カーボンニュートラル
英国 1990年 68% 2050年カーボンニュートラル
ドイツ 1990年 65% 2045年カーボンニュートラル
中国 2005年 GDP当たり65%以上減、
絶対量は減少に転じさせる
2060年カーボンニュートラル

 

以前の2030年目標は、例えば日本は2013年度比26%、米国は2005年比26-28%、EUは1990年比40%でした。これを踏まえると、目標が強化され一定の進展があったことがわかります。
しかしながら、現在の目標も1.5℃を目指すには十分ではなく、このままでは2.7℃程度気温が上昇してしまうこと、そして目標と政策が整合していないことが指摘されています※。
したがって、目標達成に向けた政策の策定・実行が急がれるとともに、2025年に予定されている次回の見直しのタイミングで、さらに野心的な目標を設定することが求められます。
※参考:『今そこにある温暖化危機 排出ギャップ報告書2021(IGES)

企業が掲げる脱炭素化の目標例

 

排出削減は政府だけは達成できず、社会全体で対応する必要があります。したがって、自治体や企業といった非政府アクターも1.5℃目標に沿った排出削減目標を設定し、取り組みを推進することが望まれます。ここでは、企業が掲げる脱炭素化の目標について、主要な例をご紹介します。

SBT

 

SBTとは「Science-Based Target(科学と整合した目標)」の略であり、その名のとおり、パリ協定の1.5℃目標達成に向けて、科学的に削減が必要とされる排出量と整合する目標を設定した企業に認定を与える枠組みです。近年、参加する日本企業数が急速に増加しています。

SBTに参加する日本企業の認定数

出典:環境省『SBT 概要資料

SBTの認証を受けるためには、自社だけでなく、与えられた基準に沿ってサプライチェーン全体についても排出削減目標を設定する必要があります。
(目標設定方法については『グリーン・バリューチェーンプラットフォーム サプライチェーン排出量算定から脱炭素経営へ(環境省)』を参照ください。)

この目標設定の際、従来は「2℃を十分に下回る水準」、「1.5℃」の2つの基準のどちらかを選択する方式でしたが、
「2℃を十分に下回る水準」は2022年7月以降受け付けず、最低基準を「1.5℃」とすることとなりました。
前述の1.5℃目標へのシフトは、政府だけでなく、企業にも求められる対応方針であることがわかります。

RE100及び再エネ100宣言 RE Action

 

RE100は、世界で影響力のある企業(年間消費電力量が100GWh以上(日本企業は50GWh以上に緩和)の企業)が、事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットする国際イニシアチブです。企業が結集することで、政策立案者、電力事業者および投資家に対してエネルギー移行を加速させるためのシグナルを送ることを意図しています。情報技術から自動車製造までフォーチュン・グローバル500 企業を含む多様な分野から企業が参加しており、日本企業は2022年7月12日現在72社に達しています。

なお、学校、病院、自治体や、年間消費電力量が50GWhに満たない企業は、再エネ100宣言 RE Actionという日本独自の枠組みを通じて、RE100と同様に使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットすることが可能です。

EV100、EP100

 

RE100の兄弟とも言える国際イニシアチブとして、事業活動で使うモビリティーを100%ゼロエミッションにすることにコミットするEV100と、事業のエネルギー効率を倍増させること(生産性倍増等)にコミットするEP100が存在します。どちらのイニシアチブも、RE100を運営する英・クライメートグループが運営しており、世界を代表する企業が名を連ねています。

まとめ:企業が脱炭素化の目標を設定する意義

 

世界は気候危機の甚大な被害を最小限に抑えるべく、2℃目標から1.5℃目標にシフトし、「世界全体のCO2排出量を2030年までに約半減、2050年までに実質ゼロ」に向けて動き始めました。

一方で、その対策内容・規模はまだ十分ではないことから、企業においては、1.5℃目標と科学的な整合性が取れた排出削減目標の設定をSBTを通じて行い、1.5℃目標へ向かう意思を結集して示しています。

また、再エネ導入、EV導入、エネルギー効率改善といった排出削減の「方策」に係る目標も重要です。SBTを大目標だとすると、その大目標を達成するための方策についても個別目標を設定することで、企業の足元の取り組みを進める推進力ともなります。

さらにその進捗が集計され年次レポートとして公開されることで、グローバルな取り組みの中で共通した課題や地域ごとの課題が明確になり、それら課題に対し企業がグローバルに結束して取り組む原動力ともなっており、日本においても2021年3月に国内外のRE100企業​53社が​JCLPと連携の下、再エネの導入拡大を求める書簡を日本政府に送付しています​。

このような企業の動きによって、各国政府の削減目標引き上げが後押しされ、新たな目標に沿った政策導入につながり、それによって企業がさらに削減を進めるという好循環が回り続けることが、1.5℃目標の達成に漸次的に近づいていく流れを作るものとして期待されています。

別のコラム『企業が脱炭素に取り組む理由とは? ~RE100における製造業の動向から、背景を読み解く~』では、欧米企業中心に発足したRE100が、アジア圏の再エネ需要を代表する面も持つ活動へと広まりを見せ、国境すらも超えた地域レベルで、その動向が注目されている事を紹介しました。RE100はまさに、目標設定の重要さや、結集し実践することによって、1社では難しい大きな変化の契機となる可能性を体現している活動とも言えるのではないでしょうか。

 

日本では意欲的な目標設定に躊躇する傾向がみられますが、目標設定が持つ潜在力を見定め、自社の事業や戦略と整合させ、自社の成長だけでなく社会が変化していく推進力として取り組んで行くことも、脱炭素経営に求められる要素ではないかとJCLPでは考えています。

 

脱炭素社会については、こちらでまとめておりますので是非併せてご覧ください。コラム「脱炭素社会とは? ~求められる理由と、実施すべき取り組み・課題~

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