企業が脱炭素に取り組む理由とは? ~RE100における製造業の動向から、背景を読み解く~

2022.7.4

脱炭素 製造業
本コラムは、気候変動とビジネスの関係(脱炭素経営)に関心を持ち始めた方へ、押さえて頂きたいキーワードや、動向を紹介していくコラムです。(JCLP事務局)

脱炭素に向けて動きだした各国政府と、欧米から日本・アジアへ広がる企業の意思表示


2015年12月のCOP21でパリ協定が採択され、各国は、世界の平均気温の上昇を2℃ 以下に抑える共通目標(通称2℃目標)を設定し、さらに1.5℃以内に抑える努力を追求する旨(通称1.5℃目標)に合意をしました。さらに、2021年11月に開催されたCOP26では、この1.5℃目標に向けた削減強化を各国に求める「グラスゴー気候合意」が採択され、世界の気候変動対策の基準は事実上「1.5℃」にシフトしてきています。
日本においても、菅前総理が2020年10月の所信表明演説において、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しています。

パリ協定の1年以上前から動き出した、グローバル企業


世界や日本において、脱炭素に向けた大きな動きが出ている中、事業で使用する電力の再生可能エネルギー100%化にコミットする協働イニシアチブであるRE100は、COP21の約1年前となる、2014年9月に発足しました。当初は欧米を中心とするグローバル企業が参加し、発足翌年のCOP21の会場ではRE100に参加するグローバル企業CEOが集い、脱炭素を目指す宣言と取り組む意義を相次いで発表していました。

2017年4月には日本から株式会社リコーがRE100に初参加し、大きな注目を集めたなか、日本企業の参加が徐々に増えていき、今や日本企業72社が参加し、世界でも372社が参加する一大イニシアチブとなりました(2022年6月現在:RE100の概要説明はこちら)。

アジア・製造業に広まるRE100と脱炭素の機運


さらに、ここ2~3年の傾向として、再エネ調達が困難との指摘が多いアジア圏からの参加が急速に伸びており、発足当初は欧米企業中心であったRE100自体が、アジア圏の急速な再エネニーズの拡大と挑戦を代表する活動として、ステップアップして来ていることが報告されています。
参考:RE100年次レポート2021

全世界におけるRE100への参加数

特に、製造業は他産業よりも消費電力量が多い傾向にあるにも係らず、アジア圏からの製造業の参加が、欧米よりも顕著に多くなっていることが指摘されています。
アジア圏が世界のサプライチェーンの重要な位置を占めており、かつ消費電力量の多い製造業においてもRE100参加企業が増えていることから、脱炭素の機運が、日本だけでなく、アジア圏で急速に広がっていることが読み取れるのではないでしょうか。

製造業におけるRE100への参加数

このような世界のサプライチェーンにおける脱炭素の流れは、RE100年次レポートでも、企業が再エネに取り組む理由の中で、直接的な効果であるGHG排出量管理以外にも、
業績や株価にも影響する要素である、顧客の期待、長期リスク管理、株主要請、規制等が重要であると指摘されていることからも伺えます。
参考:RE100年次レポート2020

脱炭素に向かう急激な変化と、製造業における課題


これらの変化が「ここ数年で急速に起きてきた」との声が、RE100に参加する企業などからも多く聞きます。
これは、日本企業のRE100初参加が5年前の2017年、韓国においては僅か2年前の2020年であるにも関わらず、アジア圏のRE100参加企業数が上記のように急速に伸びていることから、数字にも現れている通りと考えます。

その一方で、固定資産を多く抱え、設備の減価償却年数や耐用年数も長い傾向にある製造業では、変化に時間がかかることが多く、影響が顕在化してからでは対応が間に合わないこともあります。
また、新規設備投資や製品・技術戦略においても、これまで以上に先々を見通した判断が求められるとの声も、多くの企業からお聞きする所です。

製造業のRE100における動向からみる、脱炭素経営に求められるもの


変化の兆しを的確に掴み、予見性を持った判断をしていくには、顧客の期待や株主要請等が顕在化する前の段階にある、根源的な変化を早期に察知していくことが肝要であるとJCLPでは考えています。

JCLPの基本コンセプト

上図は、JCLP会員に配布している、ニュースレターの基本コンセプトを図示したものです。

直接かつリアルタイムの影響と、段階を経て企業に影響が現れてくるもの


一番上側の企業にダイレクトに矢印が引かれている「物理的影響」の経路は、直接的に企業活動に影響を与える経路であり、気候変動が進行し、気象災害が顕在化するほど、実際の企業活動や、その地域における事業継続性にも影響していきます。既に全国展開する企業などからは、ここ数年、毎年洪水被害が発生するようになった拠点があることなどが報告されています。

他方、下側の経路は、様々な段階と時を経て、企業への影響が現れてくるものであり、世界や社会の構造的変化を示すものです。

  • まず、深刻な気象災害に対し、IPCCなど科学的知見が進化し、気候変動が重要視されることによりデータの蓄積も進み、さらに多くの科学者が研究するようになります。
  • それら科学の知見が発信されることによって、世の中の認知・世論がアップデートされていきます。
  • 世論、さらには政治家・経済界に認知が広まることにより、政策転換に繋がります。
  • 政策転換がダイレクトに市場変化につながるケースや、技術進展を促しながら市場が変化するケースなどを、金融・投資関係者が見定めながらポートフォリオを変更し、実際の市場も変化することで、企業活動への影響が起こってきます。


このように、社会や政策が構造的に変化していくなか、RE100に参加する企業からは、「優秀な人財ほど企業を隅々まで調べてくる。気候変動対策は将来を担う優秀な人財を獲得するうえでも欠かせない対応」「RE100宣言後、求人応募数が倍増した」などの声も聞かれるようになりました。

脱炭素経営に求められるもの



脱炭素 製造業

RE100におけるアジアや、製造業の動向から読み取れるように、グローバルなサプライチェーンにおいて、脱炭素の流れは不可避のものとなっており、経営資源と言われるヒト・モノ・カネや、企業を取巻く外部環境である、政策・経済・社会・技術のいずれもが、脱炭素と深く関連してきています。

製造業だけでなく、あらゆる業界において、もはや経営と脱炭素は切っても切れないものとなっています。脱炭素を経営の観点でとらえ、経営戦略や企業活動に取り込んでいく脱炭素経営が、今後必要不可欠なものとなっていくのではないでしょうか。

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