建設業における脱炭素化 ~取り組む意義とは?~

2022.7.13

脱炭素 建設業
本コラムは、気候変動とビジネスの関係(脱炭素経営)に関心を持ち始めた方へ、押さえて頂きたいキーワードや、動向を紹介していくコラムです。

 

業務・家庭部門における二酸化炭素(CO2)排出量は、日本全体の約1/3を占めています。そのため、オフィスビル、マンション、戸建住宅等における排出量削減は、脱炭素化の取り組みにおいて重要な分野の1つです。国連のSDGs(持続可能な開発目標)においても、脱炭素化は、気候変動対策のみならず、クリーンなエネルギー、持続可能な消費、健康的な生活などにまたがる、重要かつ幅広い取り組みと位置づけられています。

そこで本記事では、建設業の脱炭素化への取り組みや、その意義等について紹介していきます。

 

この記事でわかること
  • 建設業における脱炭素化の取り組み
  • 建設業が脱炭素化に取り組む意義
  • 建設業における脱炭素化の事例

建設業における脱炭素化の取り組み

脱炭素 建設業

脱炭素化が注目されている背景として、パリ協定という国際的な枠組みが挙げられます。パリ協定では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする。そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と森林などによる吸収量のバランスをとることを長期目標として掲げました。これを踏まえ、日本政府は、2020年10月に「2050年までにカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」と宣言しました。

 

日本政府では改正建築物省エネ法を2021年4月に施行し、従来2,000㎡以上の大規模建築物に課されていた省エネ基準への適合義務を、中規模建築物(300㎡以上のオフィス等)にまで対象を拡大しました。以前にも増して省エネ性能の高い建築物の普及が期待されますが、2030年の中間目標や2050年までのカーボンニュートラルに整合する省エネ基準や再エネ導入等の観点にて、より一層の検討や議論が続けられています。

建設業における脱炭素化の取り組み ~建設時と使用時~

 

建物に由来するCO2排出は、一般的な建物の建設時で約1~2割、使用時で約7~8割を占めており、それぞれの排出量削減が欠かせません。

建設時における、CO2排出量の削減

 

建設時のCO2排出量を把握するには、施工現場での電気・軽油・灯油・水道の使用量だけでなく、資材個別の製造時のCO2排出量把握など多岐に渡る対応が必要となります。これまでは資材の購入量や購入額に一定の係数をかけ、排出量を算定する手法が多くとられてきましたが、排出量の少ない高価な資材を使用すると、逆に排出量が多く算定されることになってしまいます。

 

そのため、最近では実際の排出量を把握し、より排出量の少ない資材を使用した際の削減効果を、建物トータルのCO2排出量に反映する試みや議論も盛んになってきています。

また、工事契約の際に、カーボンニュートラルに関する取組状況などを評価する「カーボンニュートラル対応試行工事」という取り組みが行われています。実際に低炭素・低燃費建設機械の活用状況を報告するなど、施工工程を見える化することで、CO2排出量を把握し削減していく試みが行われています。

 

国際的には、2020年12月に発足した脱炭素鉄鋼の調達を推進する需要家イニシアティブSteelZero(スチール・ゼロ)や、2022年7月に発足した脱炭素コンクリートの調達を推進する需要家イニシアティブConcreteZero(コンクリート・ゼロ)のように、従来は脱炭素が難しいとされてきた分野でも脱炭素を求める声が集まってきており、日本だけでなく世界的な建設業における脱炭素の動向が今後も注目されるのではないでしょうか。

建物使用時における、CO2排出量の削減

 

建物使用時のCO2排出量は、1990年から2008年にかけて半分程度まで減少していますが、2010年から2020年にかけては同等の水準となっています。そのため、建物使用時のさらなるCO2排出量削減が急務となります。

 

特に、新たに建設する建物は、今後数十年使い続けることができるため、カーボンニュートラルの目標年となる2050年時点、さらにはそれ以降も使用されることになります。従って、現時点において、建物の新築時には、十分な省エネ性能を確保することが必要となります。

 

そこで日本政府は、断熱性能の向上・高効率設備機器の導入による省エネと、再生可能エネルギーの導入により、年間のエネルギー収支をゼロにすることを目標とした建築物​​『ZEB(ゼロ・エネルギー・ビルディング。読み方:ゼブ)』の普及を促進しようとしています。

建物をZEBにするには、まずエネルギー使用量を一般的な建物の半分以下(ZEB Ready)とし、さらに建物の屋上等にエネルギー使用を賄える再エネ設備を設置する必要があるため、更なる普及には、ZEB化のコスト増に対する顧客の理解促進や、制度的な後押しなどが必要になっています。

建設業が脱炭素化に取り組む意義

 

脱炭素 建設業

建設業が脱炭素化に取り組む意義として、以下が考えられます。

  • ビジネスの統合
  • 競争力・成長性の強化
  • ブランドイメージの向上
  • 資金調達

 

日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を、全体としてゼロにすることを掲げており、脱炭素化市場は今後もさらに拡大すると考えられています。そのため、いち早く脱炭素や省エネ技術などの技術革新に取り組み、それを建材、重機、さらには建物自体などに統合し、ビジネスとしていくことで競争力や成長性を高める動きが出始めています。

 

また、気候変動対策に積極的に貢献する姿勢を示すことで、RE100宣言しているようなテナント入居企業の契約維持や新規契約、採用における応募数増加等、単なる企業ブランドイメージ向上に留まらない直接的な効果についても、実際に耳にすることが増えてきています。

 

そして、資金調達の観点においては、建設時に多額の資金が必要とされ、数十年先の運用益や返済見込み等を投資家・金融機関から見られている建設業において、脱炭素化に取り組んでいることは、日本政府が2050年までのカーボンニュートラルを目指しているなかで、前提条件ともなっていくのではないでしょうか。

建設業における脱炭素化の事例

 

建設業における脱炭素化の事例を3つ紹介します。

大和ハウス工業株式会社

 

大和ハウス工業株式会社では、新築する建物は原則ZEB化するという方針のもと、オフィスや店舗、物流施設などでZEB化を推進しています。

上記に加え、事業で必要となる電力を再生可能エネルギーで賄うため、従来より取り組んできた発電事業のノウハウや設備を活かし、グループで発電した再生可能エネルギーの自社活用を本格導入しつつ、顧客への電力提供や新たな発電所の建設などにも取り組んでいます。2020年度には、グループが運営する再エネ発電所の合計発電量が、初めて自社の電力使用量を上回りました。
現在は、「エネルギーの自給自足」の早期実現を目指し、オフィス、工場をはじめ、施工現場や住宅展示場でも再エネ電気へと切り替えを進めており、2023年度中に再エネ利用率100%(RE100)の達成を計画しています。

その他、ZEB化した建物のショールーム活用によるZEB提案や、建物引き渡し後の再エネ電気供給、余剰電力の買取など、多様なサービスや事業展開へと繋げています。

三井不動産株式会社

 

建物の使用時における脱炭素化では、入居するテナント企業など、バリューチェーン全体を俯瞰した取り組みも大変重要になってきます。そのため、三井不動産株式会社ではテナント企業に対し、再生可能エネルギーの電力提供を行えるよう東京電力エナジーパートナー株式会社と提携し、自社が保有・転貸する建物の専有部や共用部において、固定価格買取制度(FIT)による電力買取期間を終えた住宅用太陽光発電由来の環境属性が付随した電力等を提供しています。テナント企業の要望に対し、環境属性が付随した電力を提供するのは国内初の取り組みとなります。

また、日本橋や豊洲の建物内にエネルギーセンターを設け、建物だけでなく、周辺地域にも電気や熱を供給することで、地域のCO2削減に取り組んでいます。

戸田建設株式会社

 

戸田建設株式会社では、施工時に必要となる電力を100%再生可能エネルギーで賄うため、再エネ電力の調達を進めています。
また、建設現場において建設重機が大量に使用する軽油に伴うCO2排出量削減のため、より低炭素な軽油代替燃料(天然ガス由来のGTL燃料や燃費向上剤等)の使用拡大にも取り組んでいます。

建物のライフサイクルにおいて、最もエネルギー消費量が多いのが建物の運用段階であり、その解決策がZEBです。
戸田建設株式会社では、ZEB達成に貢献する技術開発や顧客へのZEB提案に取り組むと共に、現在施工中の新本社ビルでは、国内で初めて超高層複合用途ビルにおける建物全体でのZEB Ready認証を取得し、ZEBの普及拡大に向けた取り組みを進めています。

まとめ

 

以前より、脱炭素化の取り組みはコスト面から取り組み難いものと言われることが多いものでしたが、日本政府が2050年までのカーボンニュートラル実現を掲げているなか、建設業においても脱炭素化に取り組むことは、資金調達、競争力強化、ブランドイメージ等、様々な観点から必要不可欠なものになっていくことが考えられます。

 

以前のコラム「企業が脱炭素に取り組む理由とは? ~RE100における製造業の動向から、背景を読み解く~」にもあるように、世界的に脱炭素化の動きが加速しているなか、建設業界においても、テナント入居企業への再エネ提供やZEB対応、さらにはバリューチェーン全体での脱炭素化を見据えたスチール・ゼロやコンクリート・ゼロなどに代表されるようなダイナミックな動きが起き始めているのではないでしょうか。

 

脱炭素社会については、こちらでまとめておりますので是非併せてご覧ください。コラム「脱炭素社会とは? ~求められる理由と、実施すべき取り組み・課題~

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