サプライチェーン全体での 温室効果ガス排出量の見える化 に関する提言

2012.5.31

目次

0. はじめに
1. 検討の流れ
2. 提言の内容
2.1 基準の内容に関する提言 <1>企業が適用しやすい基準とする観点から
2.2 基準の内容に関する提言 <2>国際的整合性の観点から
2.3 取組の普及推進に関する提言
2.4 企業評価への活用に関する提言
2.5 今後の発展の方向性に関する提言
3. 残された課題
3.1 残された課題<1> ~政府などが取り組むべき課題
3.2 残された課題<2> ~企業自身が取り組むべき課題

 

0. はじめに

GHGプロトコル1が「スコープ3」基準2の内容を具体化しはじめた2010年11月以降、企業のサプライチェーン(あるいはバリューチェーン)全体の温室効果ガス排出量の算定・報告をめぐる動きが、内外で活発化している。
当のGHGプロトコルによる「スコープ3」基準の正式発行および普及啓発に関する取組に加え、CDP3における「スコープ3」排出量に関する算定報告への加点項目の増加、日本政府による「スコープ3」基準に対応した日本版のガイドライン等の作成、さらには欧州委員会による「スコープ3」以上に包括的な環境負荷算定手法の開発と制度化検討など、動きの主体・内容は多岐にわたっている。

こうした中、Japan-CLPは、企業のサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算定・報告するための基準・ガイドラインに関する一連のイニシアチブを、基本的には歓迎する立場を取ってきた。それはこうした種々のイニシアチブが、Japan-CLPが先行して2010年4月に発表した「持続可能な低炭素社会に向けた企業グループからの提言」(“12の提言”)を実現するための具体的な枠組みを生む原動力となりうると期待したためである。
“12の提言”において、我々は、提言⑤「サプライチェーン全体をカバーし、製品・サービス、及び企業活動全体の測定を可能とする、国際的に広く整合性のある見える化の仕組みと指標を構築する」という形で、サプライチェーン全体のGHG排出量の算定基準の重要性をいち早く世に訴えてきた。その背景にあった問題意識は、以下のようなものであった。

 

・ 従来の国内の温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度は、自社の組織境界内からの排出量が対象となるため、企業がサプライヤーや顧客との連携や技術革新等を通じて実現するサプライチェーンの上流・下流における削減を主張することができない。

 

・ 個々の企業によっては独自に基準を設定し、これらの排出量や削減量を算定・報告する取組も進められてきたが、企業ごとに異なる独自基準での取組では、個々の取組が社会の中で連鎖する浸透力に欠ける。

 

“サプライチェーン全体をカバー”と“国際的に広く整合性のある見える化の仕組みと指標”とは、こうした問題意識から導かれたキーワードなのである。
この提言⑤の観点から見た時、GHGプロトコルによる「スコープ3」基準の策定・発行の取組は、“サプライチェーン全体をカバー”(GHGプロトコルは“バリューチェーン”と呼称)と“国際的に広く整合性のある見える化の仕組みと指標”という我々のキーワードを共に満たす点で、まずは歓迎に値するものだったのである。
しかし同時に、GHGプロトコルによる「スコープ3」基準の策定とそれに関連する数々の内外動向に対して、われわれが手放しで歓迎していたわけではないこともまた事実である。

 

Japan-CLPには、GHGプロトコルによる「スコープ3」基準開発がスタートした2008年よりも前から、「スコープ3」的な温室効果ガス排出量の算定に取り組み、さらには環境経営指標として設定していたメンバー企業が存在する。こういったメンバー企業の経験を踏まえると、「スコープ3」基準が規定する企業バリューチェーンの定義(15ものカテゴリに分類・整理)は、それが汎用性の担保を目指したものであることを理解した上で、サプライチェーン/バリューチェーンの理解を必要以上に複雑化するものと見える。また、算定に関する要求事項(例:“全ての排出量の算定・報告”を要求)は、例外規定の存在を認識した上でなお企業に負担を強いるものと受け止められた。「スコープ3」基準の内容が具体化した第2次ドラフト公開の頃から、こうした規定類がどのような扱いとなるかは、我々にとって強い関心事であった。

また、日本政府が2010年度よりスタートした「スコープ3」基準の“日本版”の作成4についても、海外発のグローバル基準を日本企業にとって理解しやすくするための取組としては好意的に見ていた反面、グローバル基準と似て非なるローカル基準が誕生することになれば“国際的に広く整合性のある見える化の仕組みと指標”という我々の目指す理想に反する可能性があることを懸念してきた。
Japan-CLPが抱いてきたこうした問題意識は、企業がサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の算定・報告を行う新しい社会の到来を嫌ったがゆえに生じたものではなく、むしろ、その到来を望むがゆえに生じたものである。それゆえに、Japan-CLPの前向きな問題意識や懸念を、社会に提言として発信していくことに意味があると考えるに至った。

 

こうした議論の末、Japan-CLPは、2011年2月に「Japan-CLPスコープ3分科会」を設立することとした。分科会の目的は、GHGプロトコルによる「スコープ3」基準の策定とそれに関連する数々の内外のイニシアチブを理解した上で、我々が掲げた「サプライチェーン全体をカバーし、製品・サービス、及び企業活動全体の測定を可能とする、国際的に広く整合性のある見える化の仕組みと指標を構築する」を実現するための提言を行うこと。これを実現するため、1年間にわたり、勉強会や政策立案者(経済産業省、環境省)との意見交換、シンポジウムにおける提言素案の発表など、さまざまな検討を行ってきた。
本文書は、この検討の成果を取りまとめたものである。
現時点(2012年3月)において振り返れば、当初我々が抱いていた問題意識の中には、GHGプロトコル自身や日本の政策立案者らの取組・対応によって解決されたものも少なくない。特に、経済産業省と環境省が共同で開催した平成23年度「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等に関する調査・研究会」5において、我々の懸念の多くが解決もしくは解決が図られている。2011年5月の時点で実施した経済産業省、環境省との意見交換も、こうした取組を微力ながらも後押ししたのではないかと、我々は考えている。

 

こうした事情を加味し、本文書は、結果として現時点で残された課題とその解決のための提言を示す形式とはせず、2011年2月以降我々が捉えた課題をその後解決されたものを含めて体系的に紹介し、何が解決され/何が残された課題であるのかを語るスタイルとしている。
本文書が、企業がサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量を算定・報告することの価値や課題に関する包括的な理解を、企業自身、政策決定者あるいは企業の報告内容を評価する格付機関や投資家に提供し、今後の更なる改善に役立つものとなることを期待したい。

 

Japan-CLP スコープ3分科会

1企業の温室効果ガス(GHG)排出量の算定・報告の世界的な基準・ガイドラインの発行及び普及を行うマルチステークホルダー型パートナーシップの名称、同団体が発行する基準・ガイドラインも「GHGプロトコル」と呼ぶ。
2 GHG protocol Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard。企業のバリューチェーン(Scope3)の算定及び報告に関する基準
3 Carbon Disclosure Project。世界の機関投資家が共同で設立した企業、政府などに気候変動への対策を要求するプロジェクト。世界中の時価総額上位企業にアンケートを送付し、気候変動への取組レベルの格付等を実施。
4平成22年度「サプライチェーンにおける温室効果ガス排出量算定方法検討会」における検討。
5経済産業省・環境省が共同開催した研究会。実施期間は2011年10月~2012年3月。具体的な検討は、「スコープ3」基準の“日本版”ガイダンスの作成を担った「排出量算定分科会」、「スコープ3」基準等の海外動向把握と「CO2の見える化」による差別化・競争力強化に向けた考え方の整理を担った「グローバル対応分科会」が、それぞれ担当。

 

1. 検討の流れ 以降はPDFをダウンロードしてご覧ください