日本の温室効果ガス削減目標に対する意見書

2015.5.29

気候変動は、人々の生活や企業活動に不可欠な社会基盤を脅かす重大な危機である。
国際社会は、気候変動の深刻な被害を避け、持続可能な成長と発展を実現すべく、気温上昇を2℃以内に抑えること(いわゆる2℃目標)に合意した。
IPCC 第5 次評価報告書は科学的知見を基に、気温上昇を2℃以内に抑えるためには、21 世紀末には世界全体で温室効果ガスをゼロ、
又はマイナスにすることが必要だとしている。

 

去る3月には、EU と米国が温室効果ガス削減の中期目標を他の主要国に先駆けて提出した。
特筆すべきは、両者が2℃目標の実現に向け、科学的知見等から最低限求められる「2050年に80%以上の削減」の実現を明確に意図し、公表した中期目標をそのための通過点と位置付けていることである。EU と米国は、主要排出国として率先して2℃目標達成に向けた明確な意思を示すことで、世界に向けて一定のリーダーシップを発揮したと言えよう。

 

そのような中、日本政府もエネルギー供給の安全性、安定性、経済性、低炭素化の観点、ならびに省エネ等の観点から、約4 ヶ月にわたる真摯な議論の結果、2030 年に2013 年比26%(2005 年比25.4%)削減という中期目標案を公表した。

 

東日本大震災以後の我が国の置かれた厳しい状況を踏まえ、様々な状況に配慮しながら目標の取り纏めに関わられた方々のご尽力に対し、心から敬意を表したい。

 

その上で、Japan-CLP は、以下の観点から、我が国の中期削減目標を更に意欲的なものへと深堀することが望ましいと考える。

 

・将来世代に過大な負担を強いることを避けつつ、深刻な被害を回避するために最低限必要とされ、既に閣議決定されている長期目標「2050 年に80%削減」に整合させる必要がある(2℃目標の実現には、累積排出量の抑制が本質的な問題であり、早期の意欲的削減が必要である。また、今後15 年間を社会の転換期とし、低炭素な社会インフラへ転換することが重要である)。

・気候変動問題の解決に向けた、小資源国家日本の将来のあり方(低炭素国家戦略)を明確にすれば、我が国が2℃目標実現に必要な更なる技術革新やイノベーションを起こし、国際社会の低炭素化に貢献していくことができる。

・多数の研究や観測を積み重ね、その信頼性を増している科学的な知見や、多くの困難な利害調整を経た国際的なコンセンサス等に照らし、国際社会から評価される目標とする必要がある。

・人類最大の脅威である気候変動問題において消極的と見なされることは、当分野における今日までの日本の実績や国際社会からの信頼を危ういものとし、低炭素技術や人材等の海外展開にも悪影響を及ぼす懸念がある。

 

Japan-CLP は、上記の事柄及び科学的知見と国際的な合意事項を踏まえた日本の目標に関する諸機関の知見も参考に、我が国が責任をもって積極的に気候変動問題に取組むには、2030 年の削減目標として、少なくとも1990 年比30%(2005 年比で約36%)以上が望ましいと考える*。

 

一部には実現可能性や投資回収の不確実性などにより、意欲的な中期目標を避ける議論もある。
しかし、化石資源に依存した経済成長から脱皮し、気候変動問題を解決することは、国際社会に課せられた大命題である。それは、「出来ることを積み上げる」というものではなく、深刻な被害を避けるために「今、何をすべきか」という、現世代が将来世代に先送りが出来ない課題である。

 

Japan-CLP は、地方創生にも繋がる再生エネルギーの潜在力を活かすこと、断熱改修による高齢者の健康維持など多面的なメリットがある家庭の省エネ、オフィスの効率化に資する業務部門の省エネ等、有効な対策を十分に強化することができれば、化石燃料輸入による国富流出を防ぎ、経済活性化や日本が直面する課題の解決に貢献しつつ、より意欲的な削減を目指すことが可能だと考える。

 

また、政府が意欲的な目標というシグナルを発信し、その実現に向けて炭素価格付け等のインセンティブを付与すれば、企業は積極的に投資を行い、技術革新とイノベーションに挑戦する。
消費者は環境意識を高めると同時に、より手ごろな価格で魅力的な低炭素製品を購入できる。
企業によるイノベーションと、消費者の行動変化による低炭素市場の拡大は、経済の好循環を生む。このことは、政府、企業、市民が一体となり、将来の日本の繁栄の礎を築くことに繋がる。挑戦する意義は十分にある。

 

Japan-CLP は、気候変動への対応は、単なるコストではなく、人々の生活基盤を維持し、資源に乏しい日本が競争力を強化するための有望な投資であると考える。このことを、政策決定者や、多くの企業、市民の皆様と共有したい。

 

以上

 

*IPCC から示されている気温上昇を2℃以内に抑えるための累積排出量上限と、国際的な合意事項(共通だが差異ある責任、衡平性等)を勘案した各国削減量の配分方法に照らせば、日本に求められる望ましい2030 年目標のレベルは1990 年比で約40%~90%とされる。また、国際的な合意事項からは外れる(特に途上国から批判される可能性がある)が、温室効果ガス削減の費用対効果を重視した場合でも、求められる目標のレベルは約30%とされる。