インタビュー : 参議院議員 福島 みずほ氏
日本気候リーダーズ・パートナーシップ(以下、「JCLP」)は、気候変動への危機感を共有し、脱炭素社会の早期実現を目指す企業団体です。JCLP加盟企業は、自社の温室効果ガスの排出削減や社会の脱炭素化に必要なソリューションの提供に積極的に取り組むとともに、パリ協定に基づく1.5℃目標に整合する気候変動政策の導入と実践に必要な政治的リーダーシップを後押しする目的で、政策提言活動を行っています。
2023年4月に国会議員の有志が集う「超党派カーボンニュートラルを実現する会」(「超党派CN議連」)が設立され、JCLP加盟企業から「超党派CN議連に参加する国会議員の方々の考えや活動をもっと知りたい」という声を受けて、インタビューを行っています。

参議院議員 福島みずほ(ふくしま みずほ)氏
超党派カーボンニュートラルを実現する会 共同代表
社民党 党首
―地球温暖化に取り組むうえでの基本的なお考えをお聞かせください
「日本でも50年や100年に1回の豪雨や猛暑が全国各地で発生するようになり、地球温暖化は『気候危機』とも呼ばれる事態になっています。この気候危機への対策として、脱炭素と脱原発を実現することを目指しています。2023年7月に国連のグテーレス事務総長が『地球沸騰化の時代が到来した』と発言しました。実際、2023年7月は世界でも日本でも月平均気温が観測史上最も高くなりました。日本では島根県・山口県、九州北部、東北地方で記録的な豪雨により、甚大な被害が発生しました。
海外でも猛暑、大雨、台風、森林火災、干ばつが各地で起きています。2021年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)でカリブ海の島国バルバドスの女性大統領が『地球の平均気温の上昇を1.5℃以内に抑えることは我々の生存に不可欠だ。2℃上昇は死刑宣告を意味する』と訴えたことや、ツバルの外務大臣が海の中から危機を訴える姿は衝撃的でした。
以前、若者による気候危機に対する行動の欠如に抗議する運動『Fridays For Future(未来のための金曜日)』の活動に参加する千葉の高校生と話した時に、『2019年に台風で停電が起こるなど大変な目に遭った。その時に、気候危機は遠い北極や南の島国のことではなく、自分たちの足元に迫っていることがよくわかりました。だからこうして活動しています』ということを聞きました。気候危機は貧困や人権問題を引き起こすことも明らかになっています。
2022年は、パキスタンの洪水やフィリピンの台風などにより、史上最多の3,260万人が国内避難民となりました。世界銀行の予測によれば、気候変動への対応がとられない場合には、2050年までに2億1,600万もの人々が国内避難民になる可能性があると言われています(参考)。アフリカに次いで気候難民が深刻な問題になると予測されている地域はアジア太平洋地域です(参考)。気温上昇を1.5℃以内に抑えられなければ大変なことになることを深刻に受け止め、取り組んでいきます」
―カーボンニュートラル実現の具体的な道筋をどう描いていきますか
「社民党は脱原発を掲げていますが、原発については立場が異なる方もいます。一方、地域の資源である再生可能エネルギーを最大限活用する方針に反対する人はいないはずです。東日本大震災以降、地方で再エネの発電に取り組む方が増えています。福島で被災された方が太陽光発電事業を行ったり、新潟の市民団体が風力や小水力発電を進めたりするなど、草の根の活動が起こっています。
環境省によれば、日本の再エネポテンシャルは、電力供給量の最大2倍もあります。そのポテンシャルは、都市部よりも地方の方が高いのです(参考)。地方でエネルギーを自給自足するとともに、送電線網を整備して、大都市に再エネ電力を届けていくことを早く実現できるようにするべきです。再生可能エネルギーの活用は災害時のレジリエンスの向上にもつながります」
「社民党はカーボンニュートラル実現への道筋として、温室効果ガス削減(2013年比)について『2030年に60%減、2050年100%減』を掲げています。電源構成についても、『2030年に原子力はゼロ、石炭火力もゼロ、LNG火力は2030年に50%、2050年にゼロ、再エネは2030年に50%、2050年に100%』としています。政府は温暖化対策として原子力を進めようとしています。
確かに原子力は発電時の二酸化炭素の排出は少ないのですが、原料採掘から廃棄物処分までのプロセス全体を考えると、『温暖化対策の切り札』とはなりません。事故を起こせば地球規模の環境破壊をもたらし、事故を逃れても10万年後の未来まで放射能の危険を残します。仮に、炭素の排出を減らせたとして放射能が環境を破壊してしまえば本末転倒です。温暖化対策と脱原発はセットで進めなくてはなりません」

―昨年12月のCOP28で、各国が石炭火力発電を段階的に削減していくことで合意しました。どう評価しますか
「途上国や先進国のさまざまな利害がある中で一定の結論に達したことはよかったと思います。廃止で合意できなかったので100点満点ではありませんが、及第点はあげられるのではないですか。残念なのは日本政府です。G7の中で石炭火力の将来の廃止時期を表明していないのは日本だけになりました。さらに大規模な石炭火力発電の新設計画もあります。化石賞をもらうのももっともだと思います。
脱炭素に向けていろいろな業界の方と話していると、『どうやって産業構造を転換させていくかを真剣に考えていかなければ』という声を聞きます。日本はかつて石炭から石油に転換させる時に、雇用を維持するために政府も大胆な対策をとりました。火力発電においても同じことを考えていく必要があります」
―脱炭素や生態系を守る持続可能な投資を通じて経済を立て直す、グリーンリカバリーの考え方を取り入れるべきだと主張されていますね
「欧州のグリーン政策を参考にすればいいと思っています。例えばフランスは航空会社を支援する条件として、鉄道やバスで2~2時間半以内に到着可能な短距離区間は航空便の運行を廃止するように要請しました。二酸化炭素の排出量でみれば鉄道は飛行機より優れているから鉄道輸送に切り替えていこうという考えです。また、ストラスブルクに行くと、中心街に自動車が入らないように規制し、替わりにトラムや自転車を優先させています。街づくりから変えていこう、生き方も変えていこうという発想です。
日本においても、能登沖地震の復興ではグリーンリカバリーの考え方を是非採り入れていくべきです。住宅は断熱にして、災害が起こっても自家発電ができるようにするなど。被災地で電力がいまだに復旧しておらず、厳しい寒さに直面されている地域がたくさんある状況を見て心からそう思います」
―「超党派カーボンニュートラルを実現する会」ではどのような活動に重点を置いて取り組みますか
「ポイントはカーボンニュートラルです。そこに向かって何ができるのか。参加する議員のみなさんも意欲を持っています。再エネの普及をはかるために自治体や産業界も積極的に投資をしていただきたい。日本の再エネは太陽光、水力、風力、地熱などさまざまなものがあります。地域の特性にあったものを選んでやっていけばいいのです。残念ながら大規模な太陽光パネル施設で地盤の崩落やパネルの流出が起こり、新規の設置に反対運動が起こっているところもあります。環境アセスメントをしっかり行うことでこうした事態を防がなければなりません。今のまま再エネの普及が進まなければ、日本は世界から取り残され、投資もされないようになってしまうのではなかいと心配しています」
―今後カーボンニュートラル実現にどう関わっていきますか
「若い人たちは脱炭素や再エネに高い関心を持っています。彼らの行動をさらに進めるためにも現状を見える化することが重要です。例えば、自治体ごとの脱炭素の状況を示した一覧表を作成して公表することにしてはどうでしょうか。隣の市はこれだけやっていることが分かれば、自分の市もやらざるを得ないようになります。自治体間の競争を促して、脱炭素を進めるという手法を考えていくべきでしょう。
ただ、気候危機がまだ自分とは関係ないことと思っている人がいることも事実です。昨年の猛暑や台風の被害を示して、みんなでこの問題を共有して取り組まなければ大変なことになると訴えていかなければなりません。日本には地熱や風力、太陽光などさまざまな選択肢があります。省エネも強化していくべきです。再エネの普及でエネルギーの自給率を高めることは、国富の海外流出を防ぐことにもつながります。法制度を整備し、応援する仕組みが必要です」
