インタビュー

インタビュー : 衆議院議員 藤田 文武氏

2024.3.25

 

日本気候リーダーズ・パートナーシップ(以下、「JCLP」)は、気候変動への危機感を共有し、脱炭素社会の早期実現を目指す企業団体です。JCLP加盟企業は、自社の温室効果ガスの排出削減や社会の脱炭素化に必要なソリューションの提供に積極的に取り組むとともに、パリ協定に基づく1.5℃目標に整合する気候変動政策の導入と実践に必要な政治的リーダーシップを後押しする目的で、政策提言活動を行っています。

 

2023年4月に国会議員の有志が集う「超党派カーボンニュートラルを実現する会」(「超党派CN議連」)が設立され、JCLP加盟企業から「超党派CN議連に参加する国会議員の方々の考えや活動をもっと知りたい」という声を受けて、インタビューを行っています。

 

衆議院議員 藤田文武(ふじた ふみたけ)氏
超党派カーボンニュートラルを実現する会 共同代表
日本維新の会 幹事長

 

―超党派による国会議員連盟「超党派カーボンニュートラルを実現する会」が発足した経緯と、ご自身との関わりについて教えてください

 

「2020年11月に国会で全ての政党が賛同して『気候非常事態宣言』を決議しました。政策論として考えたときに、この決議には大きく2つの意味があったと思います。一つは、気候変動の問題を広く国民に認識していただくことです。もう一つは、党派を超えて課題認識を共有した上で具体的な政策論に各党がしっかりと前向きに取り組んでいくということです。それを実現するために超党派の議員連盟『気候非常事態宣言決議実現をめざす会』が発足し、各党の幹部級が参加しました。

 

その時は日本維新の会を代表して当時幹事長だった馬場伸幸議員が世話人を務められました。『気候非常事態宣言決議実現をめざす会』を改組する形で『超党派カーボンニュートラルを実現する会』が発足した際に、馬場議員に代わって私が共同代表に就くことになりました。党の取りまとめ役を引き継がせていただきましたので、しっかりと前を向いて取り組んでいきたいと思います」

 

―カーボンニュートラルや環境問題に対するご自身の認識をお聞かせください

 

「現在の日本を取り巻く変化で対応していかなければならないのは、人口減少問題です。もう一つは、世界規模の環境負荷にどう対処するか。この二つの問題は避けて通れません。ほとんどすべての政策にまたがって影響を与えています。政治に関わる者として、これらの問題をしっかり受け止めることが様々な政策を打ち出していく上での基本になると思います。このことは党をまとめる立場になってからも、折に触れて立ち返るべき点だと考えています。」

 

「これまでの日本では人口動態と経済規模や経済成長が正の相関関係にありました。裏を返せば人口が減少すれば経済が縮小することになります。これを新しい経済モデルに変えていかなければなりません。人口が減少する中でも経済が成長して国民が豊かになる社会モデルに転換する必要があります。同時に、経済は成長し国民は豊かになるけれども環境負荷は下げていかなければなりません。

 

経済成長が環境や資源を食い潰し、または環境に負荷を与えすぎたことが回りまわって世界中の人々に悪影響を及ぼしています。この悪循環を止めることが国際社会の共通認識になっていて、日本でも国民ひとりひとりにそのような認識を共有していただくことが重要だと考えています。

 

われわれは非常に重要なパラダイムシフトに差し掛かっていると思います。量を求め規模を求めるのではなく、質を求めていく。自分だけでなく、隣国や地球環境なども含めて社会全体を考えていく。政治家にはこうした変化を導いていく力が問われていると思います」

 

―日本の気候変動政策に対するご自身の認識をお聞かせください

 

「世界の環境政策のスピード感を見ていると、日本は2歩も3歩も遅れています。合理的に新しい社会像を目指していくための法整備や規制緩和ができていません。ただ、2023年5月に「GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」と「GX脱炭素電源法(脱炭素社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律)」が成立したことは、大きな進展だと考えています。GX推進については、政府とも課題認識を共有しています。

 

ただ、われわれはさらに踏み込んで前に進めていくべきだと考えています。エネルギーに関しては各党の方針があります。原子力発電は扱いが難しいですが、日本維新の会は様々な制度を整えた上で移行期においては活用していく方針を掲げています。また、再生可能エネルギーの拡大には政府、経済界、国民のコミットが重要だと考えています。関連産業を育成し普及させていく覚悟が必要です。

 

JCLPが提言を出している洋上風力についてはわれわれも賛同しています。さらに、地熱についても注目しています。こうした分野の、技術開発、規制緩和、産業支援なども力を入れていきたいと思います。超党派でそのような意識を共有して政策を推進することができれば、国益に資するのではないかと思っています」

 

 

―国民にカーボンニュートラルにつながる行動をとってもらうには、どうしていけばいいでしょうか。

 

「政治家としてさまざまな年齢層の方のお話する機会がありますが、最近感じるのは、若い人ほど環境への意識は高いということです。若い世代は政治には興味がないといわれますが、逆に高齢者やわれわれ世代よりも20代の方が、環境はSDGs・社会課題を解決するという思いが強いですね。教育現場でもサイバー空間でもよく語られているテーマです。こうした環境への意識の高まりを全国民が共有していくようなることが必要です」

 

「気候変動や環境負荷の問題を自分の生活にどこまで直結させて考えられるか。かなり規模の大きな話なので、わかりにくいかもしれません。しかし、私たちは科学を信じ、異常気象が世界のどこかでまたは自分の身近なところで起きている事実に敏感になり、解決に向かうことこそが国の発展になるという意識を高めていくことが重要です。例えば、二酸化炭素の排出量を可視化するものとして、カーボンフットプリントという考え方があります。自分たちの生活の中でどれだけの二酸化炭素を排出しているかを知ることから始めてみてもいいかもしれません。こうした小さく見える取り組みがやがて大きな活動へとつながっていくからです。政治家の立場から必要だと感じていることは、『わかりやすさ』です。多くの国民にわかりやすく伝え、少しでもこの問題に目を向けてもらい、行動を起こしてもらうことが必要だと考えています」

 

―藤田議員は企業経営を行ってきたご経験があります。企業の取り組みへの期待をお聞かせください

 

「カーボンニュートラルは環境政策であり、経済政策でもあります。世界の市場では環境への対応が経済活動の主流となっています。ここから取り残されることは日本経済にとっても決して望ましいことではありません。すべての企業にその認識を持ってもらいたいですね。コロナ禍などでESG投資の伸び率を不安視するトレンドもありましたが、時間軸を広げれば拡大するトレンドは変わりません。5000兆円とも言われるESG投資に取り組むことが、企業として合理的な選択であると思います」

 

 「規模の大小で求められる取り組みは異なってくると思います。大企業にとって世界のトレンドであるカーボンニュートラルへの取り組みやESG投資の市場をうまく活用することは企業成長に不可欠です。大企業にはそういう意識を牽引してほしいと思います。大企業の取り組みがやがて中小企業にも浸透して日本企業全体のカーボンニュートラルが進むことにつながります」

 

―中小企業にとっては取り組みにくいとの意見もあるように思いますが、どのようにお考えですか

 

「私は政治家になる前は経営者としてスポーツジムや介護施設を経営していました。当時からカーボンニュートラルを意識していたわけではありませんが、地域を良くしよう、コミュニティにとって良いことをしようという発想は持っていました。このコミュニティの枠を最大限広げたところにあるのが今では国を超えて地球環境なのではないかと思います。それから、取引をする際にただ安いとか早いだけでなく、気遣いができる、無駄遣いをしないといった考えを大切にしてきました。そういう意識が信用につながると知っていたからです。

 

これからは、広いコミュニティに意識を向けられる企業人が増えることが経済活動においても重要になってくると思います。自然や地球環境に意識を向けられる人や企業が信用される社会になっていくと思いますし、早くそうなるように働きかけていきたいと思っています」

 

―政治の役割はどうあるべきでしょうか

 

 「日本では排出権取引市場への取り組み一つとっても世界のトレンドから10年、15年遅れている状況です。世界ではカーボンニュートラルを軸とする経済活動が大きく動いているにもかかわらず、日本は制度設計で遅れをとっている。そのことに対して政治家として危機感をもたなければいけない。一定数の政治家はそういう危機感をもっています。一方で、カーボンニュートラルは「環境に良いことであり、世の中にとっても良いこと」という認識で止まってしまっている方もいます。そうした中で菅義偉前首相が2050年にカーボンニュートラルを達成するという目標を設定したのは、かなり先見の明があったと評価しています。リスクをとっていただいた。

 

繰り返しになりますが、カーボンニュートラルは環境政策であるとともに、経済政策でもあります。企業だけでなく、政策においても世界の制度設計やインセンティブ導入のスピードについていかなければ戦えません。ここは政治の責任として取り組んでいく必要があります。経済活動はスピードが大事です。早急に排出削減へのインセンティブにつながる制度設計を行い、企業がうまく活用できるような仕組みを整え、経済と環境が好循環するように後押ししなければならない。企業経営のマインドやスピード感を政治の当たり前にすることが自らの役割だと思っています」