インタビュー : 参議院議員 福山 哲郎氏
日本気候リーダーズ・パートナーシップ(以下、「JCLP」)は、気候変動への危機感を共有し、脱炭素社会の早期実現を目指す企業団体です。JCLP加盟企業は、自社の温室効果ガスの排出削減や社会の脱炭素化に必要なソリューションの提供に積極的に取り組むとともに、パリ協定に基づく1.5℃目標に整合する気候変動政策の導入と実践に必要な政治的リーダーシップを後押しする目的で、政策提言活動を行っています。
2023年4月に国会議員の有志が集う「超党派カーボンニュートラルを実現する会」(以下、「超党派CN議連」)が設立され、JCLP加盟企業から「超党派CN議連に参加する国会議員の方々の考えや活動をもっと知りたい」という声を受けて、インタビューを行っています。

参議院議員 福山哲郎(ふくやま てつろう)氏
超党派カーボンニュートラルを実現する会 共同代表
立憲民主党 元幹事長
-環境問題をライフワークとおっしゃっています。ご自身の環境問題とのかかわりの原点は何でしょうか。
「松下政経塾の塾生時代に内戦真っただ中のスリランカに行きました。子どもたちが栄養失調で苦しむ中で、戦争が目の前で行われていることに衝撃を受けました。その最中に湾岸戦争が起き、スリランカは石油を調達できなくなりました。これこそが南北問題の本質だと感じました。
その後1992年にリオデジャネイロで「国連環境開発会議(地球サミット)」があり、1972年にローマクラブが発表した「成長の限界」が再び注目されるとともに、初めて地球環境問題にスポットが当てられました。環境問題と南北問題、経済格差はすべてつながっている問題だと理解しました。
その後も国内でちり紙交換のトラックに乗って、牛乳パックを家庭から集め、製紙会社に持ち込んでトイレットペーパーにリサイクルして家庭に戻すという活動を手伝ったりもしました。こうした実体験から地球環境問題をライフワークとして取り組もうと決意しました」
―国会議員として環境問題とどう関わってきましたか。
「1997年に京都でCOP3(第3回気候変動枠組条約締約国会議)が開催されました。私もアル・ゴア米副大統領が話すのを固唾をのんで聴いていました。翌年の参院選で初当選し、その後野党時代にはすべて環境委員会に所属して気候変動問題やダイオキシン問題、子どものおもちゃのフタル酸エステルの含有問題などさまざまな課題に取り組みました。
また、できる限り、毎年COPの会議には参加するようにしていました。野党なので政府代表団には入れません。リュックを背負って飛行機のエコノミークラスに乗って行くのです。それでも各国代表の話を聞きながら、日本の立ち位置がどうなのかなど、現場に行かないとわからないことも感じることができました。
国際会議だけでなく、オーストラリアでサンゴの白化現象を見たり、フィジー諸島共和国の浸食されている海岸にも行きました。EUや米国の気候変動に関するシンクタンクや政府の要人に話を聞きにいったりもしました。野党時代にそういうかたちで準備をしていたのです」
「政権交代を果たし、2009年に『外務副大臣として気候変動担当をやれ』と言っていただきました。鳩山由紀夫首相が国連気候変動サミットで、日本として初めて『2025年に温室効果ガスを25%削減する』と表明しました。
その後、デンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15には、私も政府代表団の一員として参加しましたが、世界から『なんで日本は急にポジションを変えたのか』と言われました。ただ、環境の国際会議で日本の首相がリーダーシップを果たしたという点でインパクトを残したと思います。オバマ米大統領が『共通だが差異ある責任』という言い方でコペンハーゲン合意としてとりまとめをしようとし、それに向けて、仏サルコジ大統領、独メルケル首相、鳩山首相が夜中まで議論しました。その場に私も参加していました。コペンハーゲン合意は、最後の最後に一部の国が反対したことで合意には至らず留保されることになりましたが、後のパリ協定に結びつくものになったと思っています。自分にとってこのような国際交渉の現場に立ち、一定の成果を得たことは政治家冥利につきる、ありがたいことだと思いました」
「気候変動問題は国際情勢や米国大統領が共和党か民主党かで左右されることもあります。日本も民主党政権時代にFIT(再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度)や環境税導入など、気候変動対策の政策を導入していきました。しかし、東日本大震災が起こり、化石燃料を使わざるを得なくなるなど、エネルギー政策が大きく変わるジレンマもありました。FITで原発20数基分の発電容量が導入されました。日本は国土が小さく再エネ導入の可能性は小さいと言われていましたが、やる気と制度が整い、投資の対象として利回りがあればできるということが証明できました。出力抑制したり、FIT制度の適応期間終了などで投資額が徐々に頭打ちになってきています。ここは再度加速する状況にしなければなりません」

―2024年から次期(第7次)エネルギー基本計画の議論が本格化します。どう進めていくべきだとお考えですか。
「再生可能エネルギーをもっと前面に出すべきです。省エネルギーもさらに力を入れていかなければなりません。そのことに政府がどういうインセンティブを与えるべきかを見ていきたいと思います。洋上風力発電だけでなく、例えば北海道は陸上風力の余力がまだまだあります。系統をつないで本州側に電力を送ることを考えていくべきです。そのためにも系統への投資をやっていかなければなりません。
また、東西の周波数問題についても取り組みが必要です。系統や周波数問題を解消し、再エネだけで日本全体を賄えるような仕組みを考えていくべきです。また、断熱についても欧州などに比べて取り組みが不足しています。断熱で冬場の電力使用量はかなり抑えることができます。家を新築するときにインセンティブを入れていく必要があります。燃料電池も世界中で競争が起きています。開発を加速させ、より小さくて安価に普及させていくことを考えるべきです」
「いずれにしろ、経済の中に環境を内部化するのが大事なことです。それが国際市場の中でも存在感を高めることになります。一方で途上国には日本が貢献する姿勢が大事です。残念ながら現在はロシアによるウクライナ侵攻などにより原油価格が上昇し、ガソリン価格も高騰しています。ただ、政府がガソリン価格を下げてガソリンを使い続けることは気候変動対策の観点からは逆行しています。ハイブリッド車や電気自動車を普及させることでエネルギー消費を抑える方向にしていくべきです。石炭火力についても事情としては理解していますが、やめる方向にどう舵を切っていくか、やめた後のリスクを社会で最小限にするシステムをどう作っていくのかといったメッセージを示していくべきです。そうでなければ2050年に間に合いません。JCLPも企業を束ねてこの方向に持っていくことに協力してもらいたいです」
―超党派による議連「超党派カーボンニュートラルを実現する会」が発足しました。
「日本では毎年起こっている異常気象による災害と気候変動を結び付けて語られることが少ないように思います。EUや欧州では異常気象は気候変動と直結して議論されています。実際、二酸化炭素の排出と気候変動・異常気象がつながっていることは科学が結論づけていることです。日本も2023年の7月は最も暑い夏となりました。異常気象が頻発しています。だからこそ超党派で国会議員がそれぞれの党の政策を乗り越えて、異常気象や気候変動に立ち向かうために、最低限共有できる問題や意識、政策をつくり、企業に対して投資を促すようなインセンティブを与えていく必要があります。党の枠を超えて活動することに意味があるのです。そうすることで有権者の信頼も得らえるようになります。
この議連は、次の時代に向けての大事なコミュニティーになると考えています。そしてこの議連とJCLPが連携することで、環境を経済に内部化する。そのための大切な枠組みができたと思っています」
―脱炭素社会の目指すべき社会像をどう考えていますか。
「若い世代ほど気候変動への危機感が強いです。その若い世代が2050年になった時に、『気候危機があれだけ叫ばれていたのに、政治家は当時何をやっていたのか、企業は何をしていたのか。私たちが今こんな苦しんでいるのに』と言われないようにしないといけない。これが私の問題意識です。政治が法律や制度でインセンティブを与えて、投資を呼び込んで経済活動を活発化させることで、未来の世代に希望を与える。将来世代への貢献だと考えればもっと使命感ややりがいになるはずです。自分たちの子どものためとなれば社会にとってのモメンタムになります」
「温暖化と二酸化炭素には因果関係がない、といまだにいう人がいます。もちろんそういう意見もうかがいますが、もう科学で結論がでているテーマです。あとは次の世代が気候変動に対応できるように、コミットできる社会の懐の深さ、準備を加速していかないといけません。
次の世代が家を建てるときに、太陽光パネルと蓄電池があり、エコカーにつなげられる仕組みがある。家の中では外部からの電力を使わなくて済む。家だけでなくビルも同様です。こうした姿を早く作って早くみせていくべきです。ショーウインドーのような町をつくるのもいいでしょう。電力の重要性はこれだけ減りますよと見せることもできます。政治家の役割が重要であると自覚しています」
