インタビュー

インタビュー : 衆議院議員 古川 元久氏

2023.11.20

 

日本気候リーダーズ・パートナーシップ(以下、「JCLP」)は、気候変動への危機感を共有し、脱炭素社会の早期実現を目指す企業団体です。JCLP加盟企業は、自社の温室効果ガスの排出削減や社会の脱炭素化に必要なソリューションの提供に積極的に取り組むとともに、パリ協定に基づく1.5℃目標に整合する気候変動政策の導入と実践に必要な政治的リーダーシップを後押しする目的で、政策提言活動を行っています。

 

2023年4月に国会議員の有志が集う「超党派カーボンニュートラルを実現する会」(以下、「超党派CN議連」)が設立され、JCLP加盟企業から「超党派CN議連に参加する国会議員の方々の考えや活動をもっと知りたい」という声を受けて、インタビューを行うことになりました。

 

衆議院議員 古川 元久(ふるかわ もとひさ)氏
超党派カーボンニュートラルを実現する会 共同代表
国民民主党 国会対策委員長兼企業団体委員長

 

-気候変動問題と関わることになった原点は何でしょうか。

 

「衆議院議員に初当選したのが1996年。その翌年に京都で国連気候変動枠組条約締約国会議(COP3)が開催され、『京都議定書』が採択されました。日本が気候変動問題の解決に向けて国際社会を主導した時に政治家としてのスタートを切ったわけで、私にとって気候変動問題はライフワークとして取り組むべきテーマになっています」

 

「自分たちの世代が今のような生活ができるのは、前の世代のおかげです。日本は戦後の焼け野原から経済復興を遂げ、経済大国になった。先人たちの努力があってこそ、我々の暮らしがあります。我々には次の世代に今の社会を少しでもいい形で引き継ぐ責任があります。今、我々が気候変動に向きあわなければ、後の世代になればなるほど影響が深刻になります。ですから、今を生きる世代の責任として、気候変動問題に取り組まなければならないと考えています」

 

「私は、『吾唯知足(われ、ただ、足るを 知る)』という言葉を座右の銘としています。私は『足るを知る』とは、『現状に満足する』ということではなく、『人は一人では生きていけない、一緒に生きている人たちと限られものを分かち合う』ということを意味していると考えています。地球環境は同世代を生きる人たちとだけではなく、世代を超えて分かち合うべきものです。『宇宙船地球号』という言葉があります。閉じられた空間である宇宙船の中では、たとえわずか1人の身勝手な行動であっても乗組員全員の命にかかわりますから、お互いに協力する必要があります。地球も同じです。人類が生存し続けるためには、世代を超えた分かち合いを考える。それが共生社会、サスティナブルな生き方なのです」

 

「私は、2005年にダボス会議を開催している世界経済フォーラムのヤング・グローバル・リーダーに選ばれました。翌年のダボス会議でヤング・グローバル・リーダーの集まりがあり、そこで元アメリカ副大統領アル・ゴア氏の映画になった『An Inconvenient Truth(不都合な真実)』というタイトルのプレゼンテーションを直に聴きました。人が化石燃料を利用することで発生する温室効果ガスが地球の気温を上昇させ、災害や感染症、水・食料不足などが起こるために大規模な対策が必要であることを、とても分かりやすく、かつ説得的に伝えるものでした。

 

私はさっそく帰りの空港でゴア氏の本を買いました。自分で日本語に翻訳しようと思ったのです。ある出版社に『出版しませんか』と相談しましたが、『こんな分厚い本は売れないでしょう』と言われてあきらめました。ただ、その後に別の出版社が日本語版を出したのですけどね。ゴア氏と再びお会いした際、『気候変動は人類が生き続けるために避けて通れない課題だ』と言われたのを覚えています。当時は『温暖化はフェイクだ』という声や、中には『暖かくなっていいじゃないか』といった声もありました。気候変動問題を深刻に考える人はまだまだ少なかったと思います。それが昨今、日本だけでなく世界で異常気象を目の当たりにするようになり、人々の意識にも変化が起こりつつあります」

 

-2020年11月に国会で「気候非常事態宣言決議」が可決された経緯を教えてください。

 

 「ある時、『欧米では、気候非常事態宣言を決議している国があるが、日本でも考えられないか』という相談を受けたことがきっかけでした。2018年10月に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の『1.5℃特別報告書』が公表され、気候変動はすでに気候危機の段階に入ったと言われるようになっていましたが、当時はアメリカ大統領のトランプ氏が『気候変動はフェイクだ』と公言するなど、懐疑的な意見も一部にあり、思い切った対策を進められない状況にありました。そこで「まずは認識を合わせることが必要だ」と考え、国会として決議を実現しようと思い動き出しました。

 

こうした決議は、与野党を超えた超党派の賛同を得ないと実現できません。そこで決議を実現するための超党派の議員連盟をつくろうと思い、まずは自民党に参加してもらうために、環境大臣経験者の鴨下一郎先生のところにお願いに行きました。鴨下先生は『古川さんがやるのならば協力しましょう』と言って下さり、各党で環境問題に関心の高い人を集めることになりました。鴨下先生から、『(自民党・衆議院議員の)古川禎久さんが環境大臣政務官経験者だから、古・古コンビでやったらどうか』と言っていただきました。そこで同い年で大学の同級生でもある古川禎久さんに事務局長を務めてもらうこととし、立憲民主党の福山哲郎さんら全ての政党から代表者を出してもらって超党派議連『気候非常事態宣言決議実現をめざす会』が発足しました。

 

決議に実現に向けた話し合いは順調に進んだのですが、ちょうど新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴う緊急事態宣言が発せられたこともあり、決議は当初の想定より半年ほど時期を遅らせて実現に至りました。結果として、政府のカーボンニュートラル宣言の直後に、衆参両院で全会派が賛成して決議することができて良かったと思います」

 

-新たに発足した「超党派カーボンニュートラルを実現する会」の役割は何でしょうか。

 

「気候非常事態宣言が決議され、共通認識を持つことはできました。次はカーボンニュートラルを実現するために、具体的な行動を起こしていかなければなりません。2050年にカーボンニュートラルを実現するには、2030年の目標達成が死活的に重要です。今やっている取り組みの延長線上ではたどり着けません。ものすごくドライブをかけて、それこそ次元の異なる対策を実行していかなければなりません。国はもちろんのこと、自治体、企業、消費者と、あらゆる階層で、今までのマインドセットを変えるぐらいの意識改革をして、行動していかなければなりません。超党派の議連で国民運動のムーブメントを醸成していこうと考えています」

 

「気候変動問題について30年近く活動してきましたが、まだ日本では十分な変革が起きていないと感じています。ただ、物事にはある閾値を越えると一気に変わるという臨界点(ティッピングポイント)があります。気候変動問題の解決に向かう動きは間違いなくそこに近づいています。あともう一歩、もう半歩でもあきらめないで堅実に努力を続けていくことが大切です。

 

日本はエネルギーを海外に頼る構造的なリスクを抱えていて、その弊害が今まさに顕在化しています。エネルギー自給率を高めていかなければなりません。グローバリゼーションは良い面もありますが、エネルギーは遠くから調達すればするだけ大量に必要になります。再生可能エネルギーを拡大して、国内で十分なエネルギーを賄う仕組みへと変えていく必要があります。企業にも新しい分野への投資に踏み出してもらいたいですね。

 

私は地熱発電には大きなポテンシャルがあると考えていますが、まだほとんど利用されていません。再エネは安定しないと言われますが、地熱発電は天候に左右されない安定性を有する電源です。技術開発で環境負荷を最小限にしながら熱を取り出していく。このように努力する余地はまだまだあります。政策面でも後押しできる仕組みを考えていきます」

 

-脱炭素社会のあり方や目指すべき社会像について、どのようにお考えですか。

 

 「やはり『足るを知る』社会、つまり対立や分断を超えて限られた資源を分かち合う、地球にやさしいサスティナブルな社会であるべきです。これまで私たちは地球上の資源を一方的に消費してきました。しかし、地球は閉ざされた惑星です。このままの活動を人類が進めていけばどうなっていくのか。『人新世』の時代に入ったと言われるのは、こうした危機感の表れからでしょう。人類の英知が問われているのではないかと思います。

 

経済成長は大切ですが、成長は時に格差を生み、格差が拡大すると対立や社会の分断につながります。日本の歴史でみても、江戸時代だけが260年間体制が維持できたのは、定常型社会を形成し、島国の中でちゃんと循環型の経済が成り立っていたからです。そして、この長く続いた平和な時代に、いま私たちが『これが日本の伝統文化芸術』と思っているような文化芸術が成熟しました。現在、紛争が世界各地で拡がりつつありますが、このまま気候変動が進めば社会の分断が進み、紛争はますます増えるでしょう。何とか食い止めなければなりません」

 

「何のために経済成長を目指すのかを改めて考えるべきです。成長はあくまで手段であり、目的は私たちが幸せになることです。したがって命や健康を守ることにつながる産業や人々の心を豊かにする事業など、人々の幸せにつながる成長を目指すべきです。GDPが増えればいいとか、お金が稼げればいいといったこれまでの成長概念を見直していかなければなりません。

 

ダボス会議でビル・ゲイツ氏が『資本主義の弊害を資本主義の枠組みの中で解決していく資本主義』、すなわち『創造的資本主義』を提言し、その一例としてと『プロダクトレッド』というエイズ・結核・マラリア対策基金を拠出する取り組みを挙げたことがありましたが、日本には『三方よし』という言葉が昔からあって、こうした発想はもともと存在しています。カーボンニュートラルを実現するための行動を、ビジネスにつながり、人々の幸せにもつながる『現代版三方よし』にすることができるはずです。そうなるようにする仕組みやルールを考えてつくっていくことが私たち政治の役割だと考えています」