インタビュー : JCLP副代表 真野 秀太(株式会社UPDATER執行役員)

2023.11.10

 

日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)副代表

株式会社UPDATER執行役員/ SX共創本部 副本部長 兼務 ビジネスSX部 部長 

真野秀太(まの しゅうた)

 

「顔の見える化」で地域と共生する再エネ普及に貢献

 

-株式会社UPDATERの事業内容と脱炭素への取り組みについて教えてください

 

「当社は再生可能エネルギーの電力を企業や個人に販売するのが主力事業です。その中で最大の特徴は『顔の見える電力』を掲げていることです。

 

電気には色も形もありませんので生産者をイメージすることは難しいのですが、コンセントの向こうには発電事業者がいて、いろいろな思いで電力を作っています。

 

環境や気候変動に悪影響を与えていない、地域貢献につながる取り組みをしている、生物多様性に配慮しているなど、発電事業者の思いをお伝えして選択できるようにしています。

 

昨今、大規模な太陽光発電施設であるメガソーラーは、森林伐採や土砂崩れの懸念など、地域にとって環境を破壊する迷惑施設になっているものもあります。顔を見せることはそうしたことへの牽制にもなり、結果として地域と共生する再エネを増やすことにつながると考えています。

 

現在は全国700の発電所から電力を調達し、調達量は年間13億kWhとなっています。また、2年前に「みんな電力」から社名変更しました。電力だけでなく、衣食住すべてにおいて顔の見える化をしていこうという思いからです。空気の見える化や土壌の見える化、国産木材の活用、エシカル消費の普及などに事業の領域を拡げています」

 

 

-御社と契約する企業や個人はどういう思いを持っているのでしょうか

 

「12年前に事業を始めた頃は、今ほど気候変動への関心は高くはありませんでした。最初のユーザーは、地域で事業を行っているカフェの経営者や靴屋さんなど、オーナー企業の方々でした。『気候変動のことはよくわからないけど、きっとそういうことは大事だよね』とおっしゃって、多少価格は割高でも共感して選んでいただいた。

 

大企業では丸井様と2018年に契約したのが最初でした。『非化石証書を付ければ再エネ利用と認められるが、われわれは環境に適合した再エネであることを大事にしたい』とトレーサビリティーを評価していただきました。

 

現在は脱炭素への関心の高まりや、RE100を表明する企業が増えており、多くの企業に当社の電力を購入していただいています」

 

-真野さんご自身の仕事について教えてください

 

「私が入社したのは2018年ですが、その前から環境エネルギー分野には高い関心を持っていました。京都議定書ができたときには大学生として気候変動枠組条約締約国会議(通称「COP」)に参加していました。その経験から政策面から変えていく必要があると考え、株式会社三菱総合研究所に入社しました。

 

2011年に東日本大震災が発生し、ボランティアとして岩手県宮古市で活動しました。そこでエネルギー問題は生活に根差したものなのに知らないことがこんなにも多いのかと思い知らされました。コンサルタントの立場ではしょせん助言する立場を越えられないので、事業者としてこの問題に取り組みたいと思うようになりました。

 

その後、自然エネルギー財団を経て、ソフトバンクグループの再エネ事業を行うSBエナジー株式会社に入社し、太陽光や風力発電所の開発する際の渉外業務を担当しました。発電事業者の立場で再エネ拡大に携わる中で、日本の電力システムをもっと再エネ中心に変えていくには、ユーザー側が「再エネをもっと増やしてほしい」という声を上げることが重要だと感じました。そこで、ユーザー側に近い電力の小売事業の立場に移ろうと思い、当時小売電気事業者でユーザーに最も近く、ある意味〝とがった〟取り組みをしているみんな電力に入社しました」

 

「入社後は主に法人事業を担当しました。当時は大企業にアプローチをすると、話は聞いてもらえるのですが『いい事業ですね。勉強になります』で終わることが多かった。当時はまだ電力調達は圧倒的に価格重視で、「再エネは高い」という先入観が強かったと思います。ESGへの意識もまだまだ低いようでした。それが、リコーや丸井、パタゴニアなどが先鞭をつけて取り組むようになり、気候変動を目の当たりにする中で、世の中の脱炭素への意識も大きく変わってきました。

 

現在は執行役員になったので、事業全体や顧客に対して当社の幅広いソリューションを提案する立場になりました。当社は顧客に再エネメニューに切り替えるというより、さらに踏み込んだアクションをしてもらうことを大事にしています。

 

顧客の考えを聴いたうえで、先を見据えた取り組みのメニューについてもお伝えし、例えばコーポレートPPAなど長期的な再エネ調達などに踏み出すことを提案しています。個々の企業だけではリスクをとりづらいことでも、まとまることで脱炭素につながるのだということを理解してもらうようにしています」

 

-真野さんが気候変動や脱炭素について感じていることは

 

「20年以上前から気候変動問題に関わってきて、企業も国も変わってきていると実感しています。ただ、まだまだトップ企業、上場企業だけとも思っています。これからどれだけ裾野を広げていけるかが課題です。

 

最終的には個々人の行動が変わることが重要ですが、日本はまだまだ遅れていると言わざるを得ません。その意味で、現在のエネルギー価格高騰は変化するチャンスなのです。私たちは、ロシアによるウクライナ侵攻という海外で起こったことで、日本のエネルギー価格が高騰するということを知りました。だったら、自宅に太陽光パネルを置いて電気をつくれば、外的要因に左右されない、レジリエンスな取り組みになる。

 

現在政府は、エネルギー価格高騰に対して、高騰分を補填する政策をとっています。激変緩和として短期的な施策としては必要かも知れませんが、本来なら国内で再エネを増やすような政策にこそもっと資金を投ずるべきです」

 

-個人や企業の裾野を広げる具体策とはどのようなことでしょうか

 

「個人であれば、みなさんが関心を持っていること、例えば音楽やアート、食などいろんなチャンネルを通じて仲間を増やしていくことを考えていけばいいと思います。当社は環境に関心のあるアーティストとコラボした活動を通じて輪を広げていく取り組みをしています。

 

また、企業には、気候変動とともに、生物多様性やサーキュラー・エコノミー(循環経済)についても関心を高めていただきたいですね。地球からの採取採掘を最小限にして、環境への負荷をできるだけ小さくしていく。再エネ投資は開発行為なので必ず周辺環境に影響を及ぼします。森林破壊をして太陽光パネルを建てても意味はありません。包括的に進めていくことが重要です」

 

 

-JCLPではどのような活動をしていますか

 

「どうすれば気温上昇を止められるのか、脱炭素社会を実現するためにJCLPや加盟企業は何をすべきか、といった話を結構本音で真剣に議論しています。参加する人たちは、それぞれの所属企業の立場というよりは、一企業人としてどうしていくべきかというスタンスで意見を出していると思います。私自身、そのようなスタンスでJCLPの活動に参加するように心がけています。そうすることで、視野が広がり、自社だけでは実現できないような新しい発想や取り組みが生まれてきます。」

 

「JCLPの副代表という立場では、なるべく社外で名刺交換する時などに、JCLPの名刺も渡して、こんな活動をしているということを伝え、裾野を広げることを意識してやっています。最近は、JCLPの運営会議に参加して、JCLPの運営方針の検討なども行っています。」

 

「JCLPの活動の柱の1つに、政策提言活動があります。さきほどお話したとおり、日本のエネルギー制度を考えるときには、ユーザー側の意見も十分に反映するべきだと思います。その意味で、JCLPの政策提言活動を通じて、エネルギーを使う側の声を政府に届けることが大事だと考えています。

 

JCLPには、色々なプロジェクトチームがあって、その中の1つが「再エネ促進プロジェクト」(以下、「再エネPJ」)です。再エネPJには再エネの需要家が多数参加していて、再エネの利用を増やすための取り組みをひざ詰めで議論しています。私は、ユーザーの声を届けるお手伝いをするつもりで、再エネの需要家と課題を共有し、供給側の視点を伝えるようにしています。」

 

-JCLPの活動を通じて実現したいことは

 

「最終的に社会の仕組みを変えていく必要があると考えています。そのためにCO2に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるカーボンプライシングを導入していく。大きな社会の仕組みがそれでできるはずです。

 

もちろん激変緩和へのトランジションプランは必要です。脱炭素の社会になったから、これだけの人が仕事を失った、不幸になったということではだめで、移行時に取り残される人が生まれないようにしていかなければなりません。このまま破滅的な状況に向かうことを企業も個人も望んでいないのですから、今こそ仕組みを変えていくべき時です」