サプライチェーンの脱炭素化を巡る動向 ~中堅中小企業への示唆と取り組み事例 ~
近年注目される脱炭素化ですが、大企業だけでなく、中堅中小企業にとっても無関係な問題ではありません。
本コラムは、脱炭素経営に関心を持ち始めた中堅中小企業の方や、サプライヤーの脱炭素化に課題を抱える大企業の方へ、押さえて頂きたいキーワードや動向を紹介するコラムです。(JCLP事務局)
サプライチェーン全体で、大きな割合を占めるScope3(サービス・製品利用時や廃棄時の排出)
GHGプロトコル(詳細は下記環境省サイト参照)では、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)をScope1、
他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出をScope2、
Scope1・2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)をScope3と位置付けています。
Scope3は、事業ライフサイクル全般を包含しており、原材料の調達・自社製品の運搬・販売した製品の使用や廃棄などにおける排出が該当します。
概してScope3の排出量はScope1・2と比較して多く、特に製造業などでは全体の8~9割を占めるケースも珍しくありません。
政策・投資家の動向
サプライチェーン全体の脱炭素化に関する政策事例:LCA規制
世界ではScope3を含むサプライチェーン全体の排出削減を推進する政策の導入が検討されています。
その代表例として、自動車に関するLCA(ライフサイクル・アセスメント)規制と呼ばれるものがあります。これは、従来の規制の対象が、燃費や走行時のCO2という「車が走っているときの環境負荷」であるのに対し、それを「車の原材料製造から廃棄に至るまでの環境負荷」に拡大するものです。EUは、2024年以降に、このLCAに基づいた自動車規制を導入することを検討しています。
Scope3を巡る投資家の動向事例
気候変動に関する投資家によるエンゲージメント(投資先への働きかけ)イニシアチブであるClimate Action 100+(累計投資額は約65兆ドル)は、2022年3月、世界主要企業166社の気候変動対策を評価したネットゼロ企業ベンチマーク(第2弾)を発表しました。そこでは、近年のネットゼロ宣言を行う企業増を歓迎しつつも、その宣言対象にScope3を含めている企業は調査した企業全体の42%に過ぎないと指摘。1.5℃目標達成に向け、Scope3を含めた包括的な排出削減を求めています。
大企業の動向
サプライヤーの脱炭素化に注力する大企業が相次ぐ
上記のような政策・投資家等の動きを受け、大企業によるサプライヤーの脱炭素化を推し進める動きが活発化しています。
ドイツのダイムラーグループは、将来のLCA規制導入を見据え、自動車部品や素材製造時のCO2削減に向け、サプライヤーにカーボンニュートラル実現を求めるとともに、2039年に未達なら取引から除外することを発表しました。
他にも、AppleやGoogle、Unileverら等も、サプライヤーに再エネ100%対応を求めており、同様な取り組みはさらなる広まりを見せています。これら大グローバル企業の日本企業との取引額合計は年間7.5兆円に上るともいわれ、既に多くの日本企業が対応を要請されているものと考えられます。
世界における、サプライチェーンの脱炭素化に向けた、協働事例
また、サプライヤーの多くが中小企業で構成されているような大企業では、個社でその脱炭素化をコントロールするのは容易ではありません。そこで、特に海外では、他社と協働してサプライヤーの排出削減を進める動きも生まれています。
例えば2020年9月に発足した企業グループ「1.5℃サプライチェーン・リーダーズ」では、サプライヤーに対し、以下3点にコミットするよう協働して促しています。
- 2030年までにGHG排出半減
- 2050年までにネットゼロ排出
- 毎年の進捗状況の報告
要請するだけでなく、3,700以上の中小企業が加盟する「SMEクライメート・ハブ」を通じて、各種ツールの提供や、ベストプラクティス等の共有を行うことで、サプライヤーが上記のコミットメントを実現していけるようサポートも行っています。
サプライヤー企業への示唆
このような大企業による動きは、サプライヤーの立場からすると、脱炭素対応を怠った場合に取引先を失うリスクがあることを意味します。裏を返せば、先行的に取り組むことによって、そういったリスクを回避するだけでなく、取引先からの信頼も向上し、取引拡大など新たな可能性も芽生えてくるのではないでしょうか。
日本における事例: 続々と現れる再エネ100%を達成する中堅中小企業
「脱炭素の取組みは、大企業と比較して中小企業は難しいのでは」と懸念する声も少なくないですが、実は、中堅中小企業から、既に再エネ100%を達成している事業者が次々と現れています。
例えば、日本の自治体・教育機関・医療期間・年間消費電力量が50GWh以下の企業が参加する、再エネ100宣言 RE Action(日本独自の枠組み。RE100からも推奨される活動)は、2021年の年次レポートにて、2021年10月31日時点で、参加200団体中、19団体が2020年度中に再エネ100を達成したと報告しています。(さらに、もう26団体が2021年度中の再エネ100%達成見込みを報告しており、合計45団体超えも見込まれるペースで再エネ100%への転換が進んでいます。)
参考:再エネ100宣言 RE Action協議会『年次報告書2021』
さらに、参加団体の再エネ100%を超えた活動として、電気自動車とV2H機器(クルマから建物への給電)を導入し24時間再エネ100%達成した総天然素材革工房 革榮や、
V2H機器にて事業所の太陽光の電力最大限活用を試みつつ、建設現場はJクレジット(再エネ由来)を使用する形で再エネ100&達成している山田建設株式会社といった、先進的な事例も紹介されています。
いっぽう、RE Actionにも比較的消費電力量の多い企業が参加しており、建設機械関連部品などを製造する株式会社二川工業製作所は、一般的に本業以外での融資獲得が難しい情勢にあるなか、リース方式を活用し初期費用がかからない形でため池での再エネ開発を行い、新電力と協力して遠隔地となる発電所から自社へ再エネを供給し、6GWh以上の消費電力量があるなか再エネ100%を達成しています。さらに、サプライヤーへもため池で発電した再エネを提供するなど、先進的な取り組みを行っています。
参考:『株式会社二川工業製作所、「第22回グリーン購入大賞」で「優秀賞」を受賞』
また、再エネ100%へ向けて挑戦中の企業においても、CO2排出量の大幅削減を進めている企業もあります。
レーザー加工等を事業とし、消費電力量が比較的多い日崎工業株式会社では、工場の遮熱塗装、太陽光発電の屋上設置、全社LED化・省エネ型加工機械・電力のデマンド監視装置など様々な対策を導入し、電気料金約6割削減・CO2排出量6割削減見込みという、大きな成果を出しています。さらに、電気自動車・蓄電池を導入し、昼間の太陽光発電の有効活用にも取組んでいます。
まとめ
サプライチェーンにおける国際的な動向から、サプライヤー企業への示唆、日本の中堅中小企業の先進的な取り組み事例まで紹介してきました。
特に事例のなかには、大企業と匹敵する(もしくは凌駕する)取り組みも見られたのではないでしょうか。これは、業態にもよりますが、大企業に比べ、購入電力の単価が高く、消費電力量が少ないことや、意思決定の速さなどが要因と考えられます。
日本の大企業だけでなく、こうした中堅中小企業の活躍が広まる事で面的な取り組みとなり、日本の脱炭素化が「難しい」から「やれば出来そう」に変わっていくのではないでしょうか。規模に関わらず日本の企業の皆様に、脱炭素への取り組みの環が広まっていくことを期待しています。
脱炭素社会については、こちらでまとめておりますので是非併せてご覧ください。コラム「脱炭素社会とは? ~求められる理由と、実施すべき取り組み・課題~」